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第47話 王都までの旅路


「ちょ……だから先生!そこにテント張るのは駄目だって!」

「そうなんですか?」

「そうだよ。ほら。見てみ。ここに小さな足跡があるだろ。それにションベンの跡」

「そうですね。それが?」

「つまりこのあたりは何かの魔獣の縄張りってことだ。俺たちくらいの実力なら問題ないかも知んねぇけど、無駄な戦いは避けたいだろ?めんどいし。変に刺激すると近くにいる魔獣が寄ってくるってこともあるし」

「なるほど……分かりました。助かります」

「おう。だからあっちの木にしよう。それなら安全だ」


 イラと真琴が新ロエ村を発ってから数日。二人は徒歩で王都を目指していた。

 馬車を使えば大体十五日ほどの道のり。徒歩なら二十五日ほどだ。多めに見積もっても一月あればたどり着ける。しかしイラたちはそこまで急がなくてもいいとリリアーナに言われていた。春までに着けばいいとも。

 春になるまで残り二月と考えれば余裕がありそうなものだが、全ての町を素通りしていくつもりはない。あちこちの村や町に留まりつつ、ゆっくりと旅をするつもりだ。そう考えると二か月はいささか短い。


 イラと真琴は野宿の準備をしていた。テントを張り、火をおこして料理を作る。その準備にイラは手間取っていた。


 旅に出て三日目にして初めての野宿である。新ロエ村近くの村は時々イラも行っていたので交流があった。だからここ二日間、宿屋はなかったが、イラの顔を使って知り合いの家に泊まることができたのだ。しかし次の町は大きい。その上村と町の間に距離があるため、今日は林の近くで野宿となり、真琴の世話を焼かせることになった。


「ふぅ。馬車のない旅は面倒が多いですね」

「こんなん冒険者にとっちゃ当たり前だし。てか岩山とかに泊まるときなんてもっと大変だぞ?水もないし、寝心地悪いし。日差しは遮れねぇし。このあたりが緑の多い土地で助かった」


 日が傾き始める頃に準備を始め、落ちる前に準備を終えることができた。木々の間に建てた天幕の下で、真琴は息をついた。

 冒険者にとって、野宿をする技術はあって当たり前のものだ。高位冒険者になればなるほど討伐対象を探すために平原や森、岩山を何日もかけて探すのだ。野宿が下手だと疲れが癒せず魔獣に食い殺されてしまう。だから高位の冒険者になるほど野宿には気を使うようになる。


 真琴も高位冒険者であり、また転移直後の浮かれ具合もあって野宿のイロハは頭に叩きこんでいた。とはいえ、イラと一緒にいるとその技術の大半が役に立たないものになった。

 野宿において、食事、洗濯、風呂、火おこし、トイレは重要な要素となる。いかに快適に、道具と手間暇かけずにするかが命になる。だが洗濯は青の精霊術で、風呂は青と赤。火おこしは赤。トイレだって黄の精霊術で代用できる。


 精霊術って便利だよな。精霊器も精霊術もほとんど持っていなかった真琴はしみじみ思う。だがテントを張ったり、張る場所などについては真琴の知識を活かすことができた。

 そして意外なことに、イラは全くと言っていいほど野宿に慣れていなかった。冒険者であれば当然のこととして知っていることを、イラは知らない。だがそれも考えてみれば当たり前のことだ。


「先生って旅とかしたことないのな」

 日は落ち、イラは夕食の準備をしている。薪は林から取った枯れ木。水と火はイラの精霊術。鍋もイラが精霊術でその都度作るという便利仕様だ。

 燃える火を眺めながら、真琴は言った。


「そうですね。村に住んでいた頃は村で小さな子どもを相手にしていましたし、軍に入ってからは旅というより大軍での移動でした。そうでなければリリアーナの転移か」

「ふぅん。ってか。リリアーナ様も王都に呼び出すなら転移で送ってくれればいいのに」

「そうは言いますねどね真琴。リリアーナの転移は見た目ほど便利なものではないんですよ」

「そうなの?」

「はい」


 リリアーナの転移の精霊術は、概念そのものに干渉する概念術式に分類されるものだ。だが概念術式は行使のための難易度が恐ろしく高い。詠唱の省略などもってのほか。一節無くすだけで制御が狂い、出鱈目な場所へ飛ばされる可能性もある。

 特に転移は転移する先の座標も特定しなければならないため、詠唱に必要な音節は百や二百では到底足りない。またさらに一人ならともかく、複数人転移させるとなると必要な音節は軽く千を超える。


 それでは実用的とは言えない。そこでリリアーナが編み出したのが「詠唱の貯蓄」という、これまでの精霊術の常識を覆す技術だ。

 精霊術は詠唱の後すぐに行使される。リリアーナはその過程に干渉し、あらかじめ詠唱しておいて、数節の詠唱でいつでも精霊術が使えるようにしたのだ。

 概念術式を使うために別の概念術式を使うという常識離れしたやり方だ。


「リリアーナは普段から大体三十ほどの転移の精霊術を貯蓄しています。ですがその大半が一人か二人用。座標も特定の場所から人物。距離換算まで様々です。三人を送り届ける転移の精霊術のストックがなく、さらに言えば転移の精霊術を編めるだけの精霊が場になかったのでしょうね」

 便利であるが万能ではない。それが精霊術だ。


「それはまぁいいです。折角ですから、真琴の冒険者時代のことを教えてください」

「俺の?」

「はい。あなたが冒険者としてどんな冒険をして、どんな戦いをしたのか。前からたまに聞いていたことと同じです」


 イラが鍋を火の上から地面に移す。中身は林にいた鹿を使った肉のスープだ。その隣には同じく鹿の串焼きもある。

 匂いにつられて他の獣や魔獣が寄ってこないように、イラが精霊術で風を操っているというおまけつきだ。


 イラは息をするように精霊術を使う。真琴もイラの元で学ぶようになってから、大分精霊術が向上したのだが、如何せんここまで手足のように扱うことはできない。

 ちなみに冒険者時代の真琴の精霊術は赤、青、緑、黄が初級未満の不完全な状態で白と黒は全くだめだったのに対し、今の真琴は、


赤 下級(短縮可)

青 下級(短縮可)

緑 中級(短縮不可)

黄 下級(短縮可)

白 使用不可

黒 初級

 となっている。最もイラは、


赤 上級(短縮可)固有術式『炉』(ただし上級緑と中級全色も併用)

青 上級(短縮可)

緑 上級(短縮可)

黄 上級(短縮可)固有術式『透徹』(ただし全色中級も併用)

白 中級(短縮可)

黒 中級(短縮可)

 となっている。並の精霊術士であれば、生涯をかけてもどれか一色で上級精霊術を行使できるようになるので精一杯だ。上級の詠唱短縮なんてもってのほか。混色などできるはずもない、というのが常識である。

 等級の高い精霊術を使えることが強さそのものではないが、これだけでもイラが精霊術の扱いにかけて別格であることが分かる。


「とにかく、俺の冒険者時代の話だろ?そうだな。俺が騎士学校に入る前にクランに入ってた話はしてたよな」

「ええ。確か金級クラン“龍王の咆哮”でしたっけ?」

「そうそう。リーダーでかっこいい長刀使いのクイナス。頼れるデカブツ盾使いのガッツ。気障だけど腕はいい弓使いのヘーハイトス。そこに調子に乗ってた俺が入って金級冒険者クラン“龍王の咆哮”。早い内から拾ってもらって、だいぶ良くしてもらったよ」

「そうですか」


 イラは黄の精霊術で皿を作りだして料理を盛りつけつつ、真琴の話に耳を傾けている。真琴も彼らのことを思い出して懐かしくなった。

「あんときの俺は結構むかつくこととか、なめたことをたくさん言ってたと思うんだけどな。ホント、フォローばっかしてもらって、一緒にバカ騒ぎして。今思えばあいつらなんで俺みたいな奴を仲間に入れてくれたんだろうな」

 真琴には力があった。だからかとも考えたが、どうにもしっくりこない。彼らは真琴を利用しようなんて全く思ってなかった。ただ一緒に冒険して、バカ騒ぎして、笑い合って。そんなことばかり考えていた気がする。


「初めてあいつらとあったのは確か俺が銀級に上がった時だったかな。洞窟に出たオーガ退治でたまたまパーティを組んだんだ。そん時の俺は色んなパーティに入っては抜けてを繰り返してて、でも難しい依頼は一人じゃ受けさせてもらえない。だから色んな奴らの世話になって、迷惑をかけて」


 真琴はあつあつの串焼きを口に運んだ。血抜きのしっかりされた鹿肉は脂身こそ少なく、独特の臭みこそあるが美味い。はふはふ言いながら飲みこんでいく。

 その横でイラは片手で肉を食べつつ、残った鹿肉を精霊術で急速乾燥させていた。どうやら持ち運べるよう、干し肉を作っているらしい。使う精霊術は三色混成の上級精霊術。

 もちろん真琴の話はきちんと耳に入っている。


「そんな俺をあいつらは受け入れてくれたんだよな。いつもは皮肉しか言わねぇヘーハイトスも嫌み一つ言わずに頷いてくれたし。俺も仲間が欲しかったから嬉しかった」

「いい仲間だったんですね」

 スープを飲みながら、イラが真琴に目を向ける。


「そうだな。ほんと、俺にはもったいないくらいの仲間だった」

「うらやましいです。自分にはそういう風に仲間と呼べる人はいませんでしたから」

 というよりも作ってこようとしなかった。自分から壁を作り、距離を置いていたのだ。


 その壁をよじ登ってでもイラと会話をしようとしたのはグランヘルムとリリアーナ、ニントス。そしてルーメンドくらいだった。

 そういえばフィリーネもよく話しかけてきていたような気がする。滅多に会うことはなかったし、大抵は無視していたが。


 あとは頭のネジの外れた商人も一人いたか。


 “龍王の咆哮”について語る時の真琴の表情は柔らかい。ふと、真琴は冒険者に戻るつもりはないのだろうかとイラは思った。

 戻るといっても、真琴は元々冒険者だ。今イラから教えを受けているのは騎士学校の特別な処置あってのこと。


 イラと真琴は生涯続く師弟関係ではなく、あくまで技術だけを教える教師と生徒の関係。明日真琴がイラの元を離れても、イラは文句を言えない立場だ。


「それはそれで……」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、独り言です」

 真琴の問いにイラは首を振る。寂しい、なんて口が裂けても言えない。真琴には才能がある。それに彼の性格を思えば、しがらみの多い国よりも冒険者として生きていくほうが性に合っているだろう。


 分かってはいる。しかし一抹の寂しさはぬぐえないイラだった。


   *


 夜。魔獣の警戒のため、真琴とイラは前半と後半に分けて睡眠をとることにした。ザザザと木々の揺れる音に耳を傾けながら、真琴は騎士学校に入ると言った時のクランメンバーの顔を思い浮かべた。



「はぁっ!?騎士学校に入るってお前馬鹿か」


「女なんて探せばいくらでもいる。やめとけ」


「俺はお前に抜けてほしくない」



 彼らは真琴を真剣にとめてくれた。しかし真琴はそれを聞かずに騎士学校へ行った。結果としてはイラにも出会えたし、自分の弱さも知れた。だから良かったのだ。ただ……


「なぁんかケンカ別れっぽくて嫌な感じだ」

 願わくばもう一度会って話をしたい。会って謝りたい。真琴は夜空の下で、そんなことを考えていた。


   *


 翌朝、テントを片づけて町へと続く街道を歩く二人。街道は領地に点在する町と町をつないでいるため、一本道ではなく分かれ道がいくつもある。

道を間違えないように地図を見ながら進んでいると、昼頃。イラは遠くで争いの音を聞いた。


「魔獣が人を襲っている?」

 道の先には馬車があり、そこで戦いが起きていた。魔獣の数はかなり多い。二十から三十はいるだろうか。種類は分からないが、動きからするにそれなりの強さの魔獣だろう。もちろん、イラであれば楽に制圧できる程度ではある。

 馬車の護衛は四人……いや一人は商人のようだから三人か。手練れだが苦戦している。


「真琴。こういう時はどうします?」

 イラとしては助けても、助けなくてもどちらでもいい。進路上にいるが、面倒なら迂回すれば済むことだ。

 真琴は戦いのあっている方をじっと見て答えた。


「遠すぎてよく見えないけど、多分護衛は冒険者だ。下手に助けると余計なことをしたなって絡まれることもある。でも」

 あえて見逃すのも具合が悪い。助けて感謝されることも多いのだ。


「ならささっと片づけてしまいましょう」

「りょーかい!」

 イラは真琴の言葉を聞くと、腰から奇怪な形状の剣を抜いた。イラの愛剣『六色細剣』だ。先日の帝国との戦いで結晶が不足し使えなかった武器で、未だに赤の精霊結晶はないからまともに使えない。

 しかし機能を使わないただの細剣としてなら、使用に何ら問題はない。


「行きます」

 一言言うと、イラは緑の精霊術を使って一気に加速。豆粒にしか見えなかった魔獣と冒険者の姿は一気に大きくなる。


「うぉあ!」

 いきなり現れたイラに魔獣も護衛も度肝を抜かれたようで、思わず戦いの手を止めてしまっていた。彼らを横目にイラは剣を振り抜く。


「ギャッ!!」

「余所見している暇はあるんですか?」

 猫をそのまま巨大化して、顔だけ凶暴にしたような魔獣の首をイラは跳ね飛ばした。馬車を囲む護衛は身の丈ほどの長刀使いが一と、盾使いが一。やや離れたところに弓使いが一。三人ともイラのことを警戒した様子で見ている。


「敵意はありません。たまたま見かけたので手伝いに来ました」

 護衛の冒険者たちに傷はなく、魔獣も何匹か狩られている。全て矢で急所を撃たれている。

 放っておいても彼らが魔獣を全滅させただろうが、乗りかかった船だ。このまま加勢する。


 二匹目の魔獣を蹴り殺してみせると、護衛たちもようやくイラを信じたらしい。

「感謝する」

 リーダーらしき長刀使いが短く答えた。


「はい。……エザク エタナウ」

 返答代わりの精霊術。密集し、連携していた魔獣を突風で引きはがす。


「精霊術士か……!」

「さっさとやりますよ」

 風に飛ばされた魔獣は隙だらけだ。突然の精霊術に驚いて、同じく隙だらけになっている護衛達にイラは冷ややかな声をかける。


「あ、あぁ」

 一度陣形を崩された魔獣は脆かった。結局、一分も経たずにイラと護衛達は魔獣を片づけることができた。


   *


「助かったよ。あんた強いな」

「いえいえ。偶然です」

 素材や討伐証明を剥ぎ取った魔獣は燃やすのが冒険者の鉄則らしい。そうしなれば血の匂いにつられて他の魔獣が来るし、死体がアンデッド系の別の魔獣に化けないとも限らない。


 頭を下げる護衛のリーダーに、イラは軽く答えた。


「ちょっと先生!速すぎ」

 そこで遠くから真琴が猛烈な速度で走ってきた。


「まじなにやって」

 真琴はイラに文句を言おうとして、その言葉を止める。怪訝に思って、護衛たちの方を見るが、彼らも目を見開いて真琴を見ていた。


「マコトか?」

「クイナス、ガッツにヘーハイトスも」


 イラが助けた護衛。彼らは真琴の昔のクランメンバー“龍王の咆哮”の面々だった。

 本話の途中でよくあるステータス的なものを入れてみました。ですが、はっきりとした数値で語ることのできない設定なので、いまいちわかりにくいですね。


 一応順番としては0使用不可→1初級→2下級(短縮不可)→3下級(短縮可)→4中級(短縮不可)→5中級(短縮可)→6上級(短縮不可)→7上級(短縮可)→(8固有術式)という流れです。並みの精霊術師だと6上級(短縮不可)まで行使できたら上等。才能があると詠唱を短縮できる。複数種の精霊を使う混色の精霊術はまちまちです。

 でも戦闘だと上級が使われることはほとんどなく、大体が初級、下級、中級をどう使うかが肝になってしまうので、強力な上級精霊術を使えるから戦闘でも強いということはないです。

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