閑話⑧ シイナとフィリーネ
「お仕事お疲れ様。はいこれプレゼント」
「ども……です」
雪の降る王都。二人の少女が最近人気のカフェテリアでお茶をしていた。一人は金髪碧眼のほわほわした感じの美少女。もう一人は黒髪青目の地味な感じの少女。“緑の玉石”フィリーネ・トーラナーラと“影衆”筆頭代行のシイナだ。
親友との久しぶりの再会となったフィリーネはシイナに、この間買ったプレゼントを渡していた。
小さな箱を開けると中に入っていたのは、イチゴ型の宝石のついた可愛らしい髪留めだった。シイナは髪留めを手に取ると、やや困った顔をする。
「んん。私、何もじゅび……してないです、よ」
「いいのいいの。これシイナに似合いそうだなって思って買っただけだから」
「……いつか、お返し、するです」
「別にいいよ~」
困った風でありながらも、シイナはもらった髪留めを早速つけた。シイナの黒髪に赤の宝石はよく似合う。思った通りとフィリーネは小さくガッツポーズをした。
「お待たせしました」
と、そこで注文していた品ができあがったらしい。アツアツのピザがテーブルの上に運ばれてきた。
「きゃー!おいしそうっ」
フィリーネはきゃっきゃとはしゃいでいる。シイナもいつも通りのぬぼーっとした様子ながらも目はピザに釘付けだ。
「はやく、食べるですよ」
「うんっ!」
シイナも仕事中であれば感情一つ読み取らせないが、今は仕事中ではない。そう、シイナは東部派遣の特別報酬として二日の休みをもらっていた。
数か月丸々騎士団と行動を共にし、一歩間違えば死に至ったかもしれない戦いの報酬が二日間の休みというのは短すぎるが、グランヘルムたちからすればこれでも無理した方である。
何せシイナを除く影衆は先日の帝国の動きについて総出で休みもなく探りに行っている。本当であれば筆頭代行であるシイナはその指揮をとるべき立場だ。そんな中で休みをくれたのだから、王夫妻には感謝しかない、というのがシイナの心情である。
しばらく二人はチーズと新鮮な野菜のうまみを口の中で味わう。シイナは仕事中はこんなにおいしいものを食べられないからという感動で涙目になり、フィリーネはピザのおいしさと熱さに涙目になっていた。
あっという間にピザを食べ終わると、食後のコーヒーとケーキが運ばれてきた。フィリーネはまたキャーキャー叫び、シイナも頬が緩んでいる。
「甘くておいしい」
砂糖とミルクを山盛りに入れたコーヒーを飲みながら、ケーキをほおばりニコニコ笑っている。シイナもブラックコーヒーの苦さとケーキの甘さの融合に舌鼓を打っていた。
「そういえば、騎士学校の方は……最近どう、です?友達、できたですか?」
食事をしながらとりとめのないおしゃべりに興じる。その最中のことだ。友達。その一言にフィリーネの満面の笑みが脆くも崩れ去る。あぁ、とシイナは思った。
「いいもん。私にはシイナがいるから友達なんていらないもん」
どんよりとした空気を醸し出しつつ、フィリーネはカチャリとフォークを置いた。いじいじと指でテーブルを撫でまわしながら、シイナに目線を向けている。
シイナは困ったようにして言った。
「でも私だっていつ死ぬか分からない……ですし、友達は」
「それは言わないで」
シイナの言葉にフィリーネは強い口調で答える。
「自分が死ぬだなんて絶対言わないで。私はシイナに死んでほしくない」
「……そう、ですね」
フィリーネは優しい女の子だ。彼女は鉄壁の守りを持ちながら、いや鉄壁の守りを持つからこそ、死というものを極端に嫌っている。
しかしシイナの仕事はいつだって死と隣り合わせだ。特にシイナはフィリーネほど常人離れしていない。今回だって死にかけた。これまでだって死にかけた回数は両手足の指を使っても足りない。
王国の玉石は皆戦争で数多の屍を積み上げることで名声をあげた。例外は鉄壁の防御で名をあげた”緑の玉石”フィリーネだ。
フィリーネの感性は“玉石”でありながら、誰よりも一般人に近い。そこがフィリーネの良さであり、また歪みでもある。
「すみません。……ところで、騎士がっこ、の勉強は楽しい……ですか?」
「楽しいよ。いろんなことが勉強できるし、先生たちも皆優しい」
「そですか」
フィリーネが嘘をついている様子はない。シイナはしばらく騎士学校から離れていたが、どうやら何事も起きていないらしい。
そうするとなぜフィリーネに友達ができないのだろうか。贔屓目に見ずとも、フィリーネは魅力的だ。外見といい、性格といい。話せば誰だって好印象を抱く。
強いて言えばメイド服へのこだわりが狂気の域に達していることと“緑の玉石”という地位か。玉石でメイド服を普段から着ていれば、案外声をかけにくいものなのかもしれない。
その二点がフィリーネが友達を作れない一因であるのだが、フィリーネ同様感性がずれているシイナは気づかない。そうでなくとも、うっかり触れるだけで大怪我する可能性のある相手と気軽に接することができるのは、玉石に準ずる能力を持つ者くらいだ。
ちなみに今日もフィリーネはメイド服である。というよりもフィリーネはメイド服以外の服を持っていない。対してシイナは王都で流行りの服を着ている。理由はもちろん目立ちたくないから。ただシイナの外見もあいまって、どうしても地味に見えるコーディネートとなっている。シイナはどんな服を着ても地味に見えてしまう。
ここまでくるともはや一つの才能である。
「ふぅ。お腹一杯。次はどこにいこっか」
「なら武器屋に……」
「駄目」
「ですか……」
どこかずれた少女たちが立ち上がる。何も知らない者が見れば仲良し二人組が遊びに来ているだけだと思うだろうし、素性を知る者が見れば恐れおののく組み合わせだ。
シイナは店を出る際、ちらりと建物の影に目を向けた。そしてその視線をすぐに外す。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっとフィリーネの人気に嫉妬しまして」
「なにそれ?」
そんなことを言いながら二人は店を去っていった。
*
「やはりばれているか」
シイナが視線を向けた建物の影。そこには三名の男がいた。非番の兵士である。彼らは薄暗い路地でぼそぼそと話し出す。
「シイナ様はさすがに鋭いな」
「だが我々の活動を黙って見守ってくださる」
「素晴らしいお方だ」
「あぁ。だが何より素晴らしいのは」
「「「フィリーネ様だ!!!」」」
彼らは『フィリーネ様ラブラブ親衛隊』。フィリーネのファンクラブである。普段やっていることはフィリーネのストーキングと警護。
何を隠そう、以前フィリーネに絡んできた地方貴族を叩きのめした騎士も、このファンクラブの一員である。
彼らの存在がフィリーネに友達ができない理由の一つになっているのだが、そのことにまだシイナもフィリーネも気づいていない。まずフィリーネは親衛隊の存在すら気づいていない。
ちなみにシイナは変なのがいるなぁ、程度の認識である。
以上、感性のずれた女子二人のガールズトークでした。実はぼっちだったという事実が発覚したフィリーネさんでした。




