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閑話③ この世界について

 世界観的な何かにちょっと触れるお話。


 新ロエ村に来て二月が経った。秋も深まり激戦の繰り広げられた森の一部の木々は紅葉を始め、乾いた冷たい風が吹き始めた。


「そういえばこの世界と日本ってわりと似てるよな」

 例によって庭に大の字になって転がる真琴は、ふとそんなことを思った。


「この世界の暦は一月が三十日で、十二か月が一年だし。季節もあるし」

 オウルファクト王国のあるヘルミオット大陸は暦の年数こそ、国によって違うが一月や一年の数え方はどの国も共通だ。週の考え方もそう。一週間が七日で、二週間ごとに追加で一日ある。

 春夏秋冬の変化もあり、日本と似ているから過ごしやすい。

 これは偶然か、それとも転生の時に女神様が配慮してくれたのか。


「よっと」

 イラから受けたダメージはひとまず回復した。真琴は起き上がって肩を回し、龍剣を鞘に納める。

 倒されてから起きあがるまで一時間ほど。以前は半日かかっていたのだから大きな進歩だ。


「あー。これからどうすっかな。……せっかくだし散歩するか」

 そう言ってスタスタと歩き出す。目的地のないただの散歩だ。秋風が心地いい。ご機嫌に歩きながらつらつらと考え事をする。


「食えるもんも似てるよな。米とか箸とか和食系はないけど、パンとかパスタとか洋食系は似てるし。スプーンとフォークも同じだ」

 似たような風土。似たような食材が集まれば、似たようなものができあがるということだろうか。

 それともおいしさを追求すると似たようなものになるということだろうか。


「そういや、長さとか、時間の単位も一緒だな」

 これは女神様の翻訳機能のおかげだろうか。真琴としては言葉で困ったことはないので別にいいのだが。

 ……よく考えれば書かれている言葉も日本語だ。そしてそれを真琴が書いて見せても問題なく意味は通じる。それは気づいていないだけで実は違う言語を使っていたりするのだろうか。


 ただ一緒のものが多いとはいえ、細かな違いはある。食材の名前は似ているが確かに違う名前だし、林檎みたいな形で味はオレンジ、のようなものもある。


 異世界。一度死んで、この世界に来てから忙しない日々を過ごしていたから深く考えることはなかったのだが、地球のある世界とこの世界。どんなつながりがあるのだろうか。

「女神様はなんて言ってたっけな」

 確か世界は無数にある。そして生き物の魂は死ぬ度に色んな世界で生まれ変わることになる、と言っていたはずだ。


「隣り合った別の世界? それともパラレルワールド? じゃないならこう、概念的相違のある価値基準が、こう……その」

 日本で溜め込んだアニメ知識で考察してみるが、まともな意見が出てこない。元からそう言う小難しい話は苦手なのだ。飽きた。とにかく真琴は異世界に来てこうして生活をしている。それでいいじゃないか。


「あーとは……宗教か?」

 この世界にはまともな宗教がない。いや、「神」という概念自体はあるからそれを奉っている人はいるにはいるのだが、この世界は無宗教という人間がかなり多い。


「ファンタジーだと宗教って結構重要な要素の一つだからなぁ。そう言う意味じゃ珍しいのか」

 女神様もこの世界は「神()()世界」と言っていた。なら本当に神様がいるわけではないのだろう。



「おりょ? ごほっ。マコトくんでねぇの」

「ん? じっちゃんじゃん。こんなところで何してんの?」

 真琴が村の中央辺りに来たところで、真琴は偶然トクロに遭遇した。


「げほっ。げほっ」

「おいおい大丈夫かよ。変なもんでも食ったか?」

 荷車を引くトクロはしきりにせき込んでいて、苦しそうだ。真琴は背中をさすろうとしたが断られた。


「むせとるわけじゃないから大丈夫よ。最近具合が悪くてな」

「そうかよ。ったくじっちゃんまだ四十代だからって無茶すんなよ?」

 この世界の平均寿命は大体五十代後半くらいだ。トクロはまだその年齢に達していないが、風邪をこじらせると危ないことに変わりはない。


「荷車俺が運ぶよ。どこまでだ?」

「いやいや、これは俺の……」

「いいからさ」


 具合が悪いのなら無理をさせたくない。真琴は半ば強引にトクロから荷車を代わった。

「すまんのぉ。ごほっ。村長のとこまで頼む」

「おう」

 新ロエ村の村長は五十代くらいの老人だ。昔は学者だったとかでとにかく大人しい、というか影の薄い人だ。だから真琴は村長の名前も知らないし、顔も何度かしか見たことがない。

 真琴は村長の顔を思い出そうとしたが、印象が薄すぎて思い出すことができなかった。


「んじゃ行くか」

「ほいよ。……けほっ」

 村長の家は今いるところからやや離れたところにある。トクロは荷車を引く真琴の隣で歩く。


「ところでマコトくん」

「なんだよ」

「俺の嫁さんの話なんだが……けほっ」

「あー」

 また始まった。トクロの長話。せき込んでいるのだから黙ればいいのに。そうは思うが言えるはずもない。トクロは何度も咳をしながら、何度も聞いた話を繰り返す。


「げほげほっ。それでつまり何が言いたいかというと俺の嫁さんは世界一……うぇっほ!」

「はいはい」


 話が長い人もどこにでもいるものだ。そんなことを考えながら、村長の家につくまでの短い間、秋空の下を二人は歩いていた。

 

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