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おジョーと僕  作者: 金木犀
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水無月4

本日ちょっと鬱々しいです。

「僕は、人間が嫌いなんだ。」


 ふとした時に沸き上がってくる言葉。

 それは紛れもない事実で、少しだけ違う気がするけれど、一番近しい表現がそれしかないから僕は同じ言葉を繰り返しているんだろう。


 家に居る時で助かった。

 不適合者であることを深く認識してしまうこの言葉は、とても悲しくて。どうにも人間社会に未練があるらしい僕の正常な部分が、ズタズタになっていく。

 苦しくて、胸が痛くて、ぎゅうぎゅうとおジョーを必死に抱き締めた。

 

「人間に、成りたいんだよ。」


 ただの『ヒト(・・)』という動物であるものに、『人間(・・)社会』の水は合わない。


 真綿で絞められるように、ゆったりと確実に。『世間』というものに僕の首は絞められてゆく。

 苦しさに喘ぐ口に流れ込むのは、『常識』という名の猛毒。濁水のように色付いたその猛毒に侵された視界の中では隣人の姿だってまともに見れやしない。

 伸ばされたその腕の先。

 貴方の表情がわからないんだ。


 僕と同じように、猛毒から救いを求めているの?

 僕を憐れんで、救おうと手を差し出しているの?

 僕が見苦しくて、振り払おうと腕を振るっているの?


 なんにせよ、思考が鈍る。服を着たまま水の中で動くみたいに、何をするのも億劫で。

 近づく指先をぼんやりと見つめるしか出来なかった。




ごぅ…という地鳴りにも似た低い音がした。

産まれては消える気泡の高い音が、低い音のアクセサリーのように然り気無い主張をしながらしゃらしゃらと響く。


 

 この音はとても好きなんだ。

 恐怖と同時に安堵する。

 音が一際大きくなった時、僕に触れる直前だった隣人の腕が千切れ飛んだ。



「おジョー、浮気はヤだよ。食べるなら僕をお食べ。」


 いつの間にか眠っていたらしい僕は、大人しく枕になってくれていたおジョーを撫でた。

 今度の休みには、プールか海に行こう。

 夢で見たおジョーの美しい音色には勝てないだろうけれど、僕は環境の中では水の中が一番好きだから。


 とりあえず今は、ヨダレで汚してしまったおジョーをシャンプーしてあげなければ。

 ぬいぐるみ用のシャンプーとおジョーを手にして風呂場に向かう。


「僕も、人間に成りたいな。」


 人間でなければ、おジョーだってシャンプーだって作れないだろうからね。

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