水無月3
クローゼットを整理していたら、裁縫道具と端切れが出てきた。暇潰しにおジョーに洋服でも仕立ててやろうと思ったんだけど…
「型紙無しでやっちゃあ、ダメですね。」
上下左右でバランスの狂ったジャケット的なものを手に、深くため息。
そもそもおジョーは鮫なんだから、人間のそれのような丸い筒状の袖じゃあ平たくて根元に近い程幅のある可愛い鰭が出てきてくれない。
なにより、背鰭の穴の位置が合ってない。
「くそ……流石に採寸の仕方なんて義務教育でやってないよ。」
高校じゃ、最初にコースター作った以外裁縫してないしね。ボタン付けとか、簡単な繕い物なら出来るけど。
ソファの隣の席を振り返ると、おジョーが円らな瞳で僕を見ていた。
そんなに可愛い目で見られたら、何も仕上げずに済ますのも申し訳ない。
「予定と変わっちゃうけど、無いよりマシかな。」
糸を数種類使ってレース編みと紐を作る。ついでにジャケットもどきも解体してパーツにする。
仕上がったものを頭上に乗せて、顎の下で紐を結んであげれば…ヘッドドレスを付けたホホジロザメに早変わり。
「できた!うん、可愛いよおジョー!
…女の子っぽいけど。」
そもそも、おジョーは女の子なのか、男の子なのか。明確な情報がない場合、持ち主が決めるのかも知れないけど僕は「鮫」だから「おジョー」としか決めてなかった。
悩みながら片付けが終わりふとを見る。
結構時間が掛かったと思ったけど、窓の外はほんのりと明るい。
「集中してたからかな?」
この時間なら、まだあの動物番組に間に合うかもしれない。
一番好きな動物は鮫だけど、哺乳類も鳥類も爬虫類も割と好きだからチャンスがあれば動物番組は観るようにしてる。
リモコンのボタンを押して、おジョーを膝へ。
ヘッドドレスがズレないように起動を待っていると、テレビから流れて来たのは見慣れない旅行番組。
弟が変なチャンネルに合わせてたのかな、と首をかしげながら番組表をチェックする。
「…………徹夜、してた。」
幸いお休みだったので、可愛くなったおジョーと一緒にヤケ寝をしようとベッドに潜り込んだ。