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くらい日向  作者: 太一
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回想

 私は帰る道すがら、あの人との最後のやり取りを思い出していた。忘れていたかった記憶だが、野崎のお陰で思い出してしまったのだ。

 記憶の中の彼女は、電話口で私の話を聞いていた。


『ごめん、急に電話したいなんて』


当時は大学二年生くらいだったろうか。ずっと忘れていた記憶だから、正確な日時は思い出せない。

ただ、成人式についてのやり取りが切欠であった様な気もするので、やはり二年生だろう。


『いや、良いよ。それより、メールじゃダメなのは、どうして?』

 元恋人とのやり取りと言うのは、存外一般的にはこれくらい普通な物なのだろうか。大して気にした様子もなく、話の続きを促してくる。


『あぁ、そう。そうなんだ。こればっかりは、直接会って話したいくらいだけど』


 確か電話に切り替える直前に、私の現状について幾らか語ったのだったか。恐らくそうだ。そうして、どうなったのだろう。最早私も覚えていないが、唐突に「電話しても良いか」となった訳だ。


『……うん』


 ここで、彼女は私の言わんとする事に気付いていたと思う。そして、私も、彼女の声で既に答えは解っていた。だから。


『……何も言わずに聞いて欲しい』


 そう言って全てを吐露したのだ。

 私はまだ君が好きで、好きではなくなろうと努力したが意味はなくて、君はもう私の事など見ていないのも解っていて、それでもただ知っていて欲しくて。

 そんな自分勝手な事を長々と話していた。途中からは、情けない事に涙を流しながら語っていた。それでも、彼女は相槌だけを打ち、最後までちゃんと聞いていてくれた。


『……うん。そっか』


 何と答えていいか解らない、そんな感じだった。私自身でさえ、心底自分が気持ち悪いと思ったのに、彼女は何も言わない。

 しばらく沈黙が流れた。私は、気まずさに耐えかねて、電話を切ってしまった。

 これが、私とあの人との最後のやり取りらしいやり取りだった。その後も、彼女の誕生日に「おめでとう」と簡素なメッセージを送り、「ありがとう」と返ってくるだけの関係は続いていた。

 決して彼女が私の誕生日を祝う事はなかった。これは、彼女なりの優しさなのだろう、と勝手に解釈している。

 今日の出来事を鑑みれば、もしかしたら彼女はまだ私に気があるのかも知れない、などと気持ちの悪い事を考えてしまう。だが、メッセージのやり取りが年に一度である事が、ギリギリで私の理性を残していた。

 もう、あの人は私を見てくれることはないのだ。

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