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くらい日向  作者: 太一
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カノジョの話

 密室で男女が二人きり、お互い息を荒げている。なんて言えば何か誤解を招きそうだが、二人して全力で歌いすぎて疲れ果てただけだ。

 三時間ほどだろうか、兎に角一人が歌っている間にもう一人が入れて、とお互い余り会話をすることもなく歌い続けた。


「これ、五時間フリーって……長くない?」


 甘ったるくしたコーヒーを吸い上げながら彼女の様子を窺う。


「アタシだって、カラオケ頻繁に、来るわけじゃないから……」


 男らしくウーロン茶を飲み干す。中学の頃から変わらない、女性らしさを感じさせない振る舞いだ。

 ふと、昨日の話が頭を過る。野崎は、関の事を覚えているのだろうか。


「なぁ、中学の頃の事ってどれくらい覚えている?」


 彼女について訊ねたかったが、こういったデリケートな問題をそう軽々しく口にしていいものか、少しだけ迷っていた。


「あ?何だ急に。元カノでも恋しくなったか?」


 軽口のつもりだったのだろうが、思わぬカウンターを食らってしまった。中学の時、私は野崎の親友と付き合っていた。三か月で振られたが。その後色々あったので、個人的に思い返したいものではない。

 あの人の最後の言葉が否応なく思い起こされる。


「……おい、まさかまだ引き摺ってんのか?十年だぞ?」


 目を見開いていた。この様子だと、彼女から何も聞いてはいないのだろうか。


「悪いか。私はそういう人間だ」


「アイツの近況について聞きたかったのか?それなら残念だが、卒業後は連絡とってないよ」


 寧ろ最近まで私が連絡とっていたよ、と喉元まで出かかったが、ぐっと飲み込んだ。それついて言及してしまえば、洗いざらい聞き出されそうだ。

 私はあくまで関の事を訊ねたかったのだ。


「そんな事じゃない。関って覚えているか」


 最悪だ、と口に出してから思った。自分の嫌な話題から離れるために、彼女の話を持ち出してしまった。


「……あぁ、彼女ね。今更そんな話、どういうつもりだ?」


 若干、機嫌を悪くした様だ。それもそうだろう。昨日私が森に苛立ちを抱いたのと似た様な状況だ。


「昨日、森から聞いたんだ。……それまで、全く知らなかった」


 自殺だった事に、感じる所があったのは伏せておく。


「……あんまりこういう話はしたくないんだけど」


 そう前置きして、彼女は知る限りの事を教えてくれた。嫌そうにしながらも語ってくれたのは、何も語らない私に、何か感じ取ったからかも知れない。

 彼女が語った関の話しは、壮絶なモノだった。いや、インターネットが普及した現代では、そこかしこで見かける話ではあるのだが、実際身近に起きたのだと聞かされたのはショックだった。

 まず、中学の頃、母が病死したらしい。既にその頃から私は、彼女について何も知らなかったのだ。それでも気丈な彼女は、父を支えながら勉学に励み、大学までちゃんと進んだらしい。

 だが、彼女の不幸はそこで終わらなかった。地元の国立には行けなかったため、地方の国立で、奨学金にバイト代にと費用のほとんどを親に頼らず生活していたそうだ。そんな時、独り暮らしだった父親が、首を吊ってしまった。原因は借金だったらしい。

 これまた良くある話で、友人が借金を残して逃げてしまったのだと言う。彼女に迷惑をかけまいと、関の父親は事に及んだ。


「通夜には出たけどさ、アイツ、気丈に振舞ってたよ。でも、辛いだろうなぁ、ありゃ」


 彼女自身が父親の後を追うのに、それほど時間はかからなかった。それが、二年前。


「私は……何も知らずに大学生活を謳歌していたよ」


 彼女の、関についての話を聞くたび、自分が果てしなく矮小な存在になっていく様な気がした。全く、自分は何を考えていたのだろう。昨年の私を叱責したい気分になった。

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