くらい家
何かの音に意識を引き上げられる。
「……はい」
音の正体は電話の着信を知らせるものだった。ボタンを押し応答する。
「さて問題です。今何時でしょうか」
そう言う彼女の声は若干棘としい。カチカチとベッド脇で時を刻んでいる時計は、三時を指していた。
「あぁ……すまん。森のやつ、安酒を飲ませやがってさ……」
昼から、という彼女との約束を思い出し、真っ先に出てきたのは弁明にもならない子供じみた言い訳だった。我ながら器が小さい。
「まぁいいよ。取り敢えず、今日は出られそうなのか」
正直に言えば、まだ頭は痛いし、吐き気も余り収まったとは言い難い。
だが、彼女の気遣いに自分が酷く矮小に思え、同時に恥ずかしくもなる。ここで彼女の誘いを断ったりしたら、それはもっと悪化しそうであった。
「まだまだ酒は抜けてないけど、まぁ居酒屋以外なら大丈夫じゃないかな」
寧ろ迎え酒をする、と言う手もあるが明日の事を考えると余り良い手とは思えなかった。
「あぁ、アタシも酒は得意じゃないから。軽く軽食でも行こうぜ」
「OK、じゃ準備するからまた後でな」
電話を切ると、着替えを持って階下へと向かう。取り敢えず、シャワーを浴びようと思ったのだ。
リビングに入ると、母がテレビを見ていた。
「あ、おはよう。お昼これね」
ダイニングテーブルの上には、チャーハンが一人前程載せられていた。
「あ……。ごめん、いいや。今からちょっと出てくる」
「そう。それなら先に言っといてよ」
苛立たしげに立ち上がると、これ見よがしに音を立てながらチャーハンをごみ箱に捨てている。別に捨てる必要はなかったのだろう。晩飯に食べると言う選択もあった。
でも、捨てた。カンカンと甲高い音を鳴らしながらスプーンで掻きだし、ごみ袋をガサガサ言わせて。
「……シャワー浴びてくる」
「……」
返事はなかった。