『私』
席に着くなり、ビールを二つ注文する。
「君もビールで良いのか」
私が彼女と最後に会った時は、まだお互いに十代だった。その所為か、彼女が酒を飲むという事に若干の違和感を覚えてしまう。
「可愛らしいお酒頼むような歳でもないもの」
そう口にする彼女は、水の入ったグラスに視線を注いでいた。その小さな水面に、一体何を映しているのだろう。
「歳って……」
嫌な言い方だ、と思った。歳相応に大人びている彼女と違って、歳はとっているのに子供みたいな私には、嫌味を言われている様な気分になった。無論、本人にそんな気が無い事は解ってはいる。昔を懐かしむ様な、そんな表情を見せる彼女の回想に、私の姿が無い事も。
「これでも女子大生だった時分にはね、カルーアだのカシスだの可愛いものを飲んでいたんだよ」
意外にアルコール度数が高いって知ったのは大人になってからだったな、なんて。彼女は更に懐古している。
「……俺は始めっからビールだった」
初めての酒の味は、覚えていない。ただ、見栄を張ってビールを飲み、気が付いたら家に居た事だけ覚えている。
「そうなの?最初は苦くて飲めなかったや」
昔から無理してブラックコーヒー飲んだりとかしていたよね、とまるで見透かしているかのように笑う。
「そう、だな。今思えば、コーヒーもビールも、俺は飲めるんだぜ、みたいな格好つけだった」
あの時は子供だった、みたいな自分の物言いに、つい顔をしかめてしまう。何を言っているんだ、私は。
「あはは、凄い顔になってる」
笑われたことで、更に眉間の皺が濃くなるのを感じる。そこへ折良く、店員がビールと突き出しを運んできた。愛想よく対応する彼女と、「ども」とだけ言って受け取る自分とを比べて、また自己嫌悪に陥りそうになる。
「まま、お酒の前でそんな暗い顔しなーい!」
暗い顔。良くそんな弄り方をされたっけな、等と思いつつ、ジョッキを持ちあげる彼女に倣う。
「じゃあ、乾杯の音頭を」
「いや、俺ら二人だけで音頭もクソも――」
「カンパーイ!」
「はぁ……乾杯」
明らかに酒飲みのテンションだ。私はこういう雰囲気が嫌いなわけではない。寧ろ見ている分には楽しい。しかし、どう混ざって良いのか解らないので、二人の時にそれをやられると困ってしまう。
私が困惑しつつも、二口程喉に流し込み、ジョッキを置くと、目の前の彼女はジョッキを半分程空けていた。
「って言うか、イチニンショウ」
どん、と勢いよくジョッキを置くと、唐突にそんな事を口にした。
「え?」
初め、何を言われているのかも解らなかった。位置認証?
「イチニンショウ」と言うのが「一人称」を指すのだと気付いたのは、続く彼女の言葉を聞いた後だった。
「『俺』に戻ってる」
私は、その瞬間に、何も考えられなくなった。




