アイ変わらず
翌朝の目覚めは、私史上五本の指に入る程にすっきりしていた。それを祝福する様に、雲一つない空に、綺麗な朝日が昇っている。ただ、気分的には最悪な朝だった。
言うまでもなく、原因は昨日のメッセージだ。と言うより、それに対するあの人の返事か。
『あんまり、亡くなった人の事を詮索するのは良くないと思うな』
たったそれだけだった。質問に答えるとも答えないとも明言はせず、曖昧な返事で誤魔化す辺りは、あの頃から何も変わっていない。
衝動的に、それでも私は知りたいのだ、とそういった趣旨の返事を書いていた。気が付けば、かなりの長文になっていた。
碌に推敲もせずに、送信を押す。返事は、すぐに来た。
『解った。でも、軽々と話せる話題でもないし、今度直接会って話そう』
彼女の返信を見ていると、一文字一文字が、私に冷ややかな視線を浴びせている様な気分になった。
すぐさま週末に予定を取り付け、そこでのやり取りは終了した。彼女と会うのは十数年ぶりだろうか。そんな事を考えては、また自己嫌悪に陥った。
週末までは、ただひたすらに、気分の高揚と自己嫌悪を繰り返していた。最早、半ば関の事を忘れかけていたかもしれない。そんな事を考えては、また別種の嫌悪を覚えるのだった。
そして、約束の日。私は、彼女と会うのに着飾るのは些か恥ずかしく、敢えて学生の様なフランクな格好をして行った。そんな風に未だ意識していること自体、またどうしようもなく恥ずかしい気もして、いっその事このまま引き返してしまおうか、とまで思っていると、背後から声をかけられた。懐かしい呼ばれ方だった。
「久しぶりだね」
そう言う彼女は、随分大人っぽい格好をしていた。衣服に疎い私には、彼女の着ている物がなんという名前で呼ばれているのか、それすら解らなかったが、肌色のコートの後ろには決して華美過ぎない飾りがついており、黒のスカートも短すぎず長すぎず、きちっとした印象を与えつつも、スーツに合わせるには向かない程度には華やかだった。
彼女の格好と、自身の格好とを見比べて、なんだかとても場違いな格好で来てしまったような気分になる。
「あぁ、久しぶり」
「なぁに、その格好。貧乏学生みたいだよ」
クスクスとおかしそうに笑う彼女に、引きつった笑みしか返せない。
「そりゃま、大学生の頃に買ったもんだし」
我ながら、子供じみた言い草だ。言い訳にもなっていないし、余計に恥ずかしくなってくる。
「相変わらずなんだね、ファッションセンスは」
覚えてる?なんて言いながら、付き合っていた当時の、デートでのファッションのダメ出しを始めた。
「あぁ、もう。恥ずかしいから止めてくれ」
「あの時と大差ないよ、今」
相変わらず楽しそうに笑いながら、今私が着ている服のどこがダメかまで指摘し始めた。あぁ、とか、うん、とか適当に相槌を打ちながら聞いていた。
ただそれだけで楽しかった。と同時に、彼女と楽しく談笑している自分が、またしても心底嫌になった。
「そろそろ、移動しようよ」
大人っぽい彼女と、いつまでもガキ臭い私の組み合わせが不自然なのか、時折チラチラと通行人が視線を向けてくる。私はその視線に、居心地が悪くなったりしたが、一方の彼女は大人の余裕とでもいうのか、全く気にしていない様子だった。
「そうだね、居酒屋とかで良いかな」
「あぁ、ありがとう」
恐らく、気を遣ってくれたのだろう。私の格好で、高級な所に連れていかれても困る。もう少しだけでも、キチっとした格好で来た方が良かったかな、なんて後悔しつつ、彼女の行く方向に着いて行った。




