明けた夜はまだ暗く
知人が亡くなった。そう聞かされたのは、大学を辞めて実家に帰った矢先の事だった。
彼女とは別段深い交流があった訳ではなかったが、同じ学校に通っていた頃は、学校で会えば会話するくらいには見知っていた。そんな彼女の、突然の訃報に驚愕こそすれ、他にどう反応するべきか解らなかった。
「突然と言う程でもない。もう二年程になるかな」
私にその訃報を届けてくれた森は、何の事もない様に続けた。
「そんなになるのか」
「まぁ知らなくても無理はない。お前、殆ど帰ってこなかったろ」
カラン、とグラスの氷を回しながら呆れたようにこちらを見る。彼はウイスキーを好んで飲む。私も彼に付き合って同じものを飲むが、然程アルコールに耐性があるわけではないので、チビチビとしか飲めない。
「彼女、何してたんだ?」
喉や舌の焼けるような感覚に顔をしかめながら尋ねると、彼はグラスの中身を煽ってから苦い顔をした。
「卒業後の事は良く知らない。元々、そんなに付き合いのある奴じゃなかったし」
その表情のまま、酒瓶を手に取りグラスに傾ける。しばらく無言で彼の顔を凝視した。トクトクとグラスに注がれる音だけがする。八分目程まで注ぐと瓶に蓋を閉め脇に置く。
「……どうかしたのか?」
耐えられなくなったのか、溜息と共に私に視線を向けてくる。私はただ首を左右に振り、出かかった言葉を酒と一緒に飲み込んだ。軽くテーブルに戻したつもりが、グラスは大きな音を立て、周囲に氷もまき散らす。
「あーあー」
テーブルの上に散らばった氷を一つ一つ灰皿の中に放り込んでいると、対面の彼は席を立ち台所の方へ向かう。戻ってくると、布巾を投げて寄越す。再び向かいに座ると、グラスを覗きながら呟く。
「まさか薄情だなんて言わないよな?」
その問いには答えず、肩をすくめて見せる。それをどう捉えたのか、彼は苦笑しながらグラスを空にした。実際、私は彼の言う通りに責めようと思った。
卒業後の事を知らないという事は、然程興味のない相手だったのだろう。彼とは進学後も何度か会っていたが、彼女が話題に上る事自体初めてだったかも知れない。
それなのに彼女が亡くなったからと、この席で酒の肴の様に話に出してきたことに、少なからず憤りを覚えたのだ。




