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第11話 乙女心の読み間違え

 俺は何か気配を感じた…違和感の正体は真っ正面の金髪と、俺を見下ろす二つの青い瞳だ。



「おはようレン」



「ふわぁ…あれ何で俺の部屋にロリリンが…」 



「昨日の仕返し」



「………なるほど、今何時?」



「8時30だよ!ほら、Wake up!」




 布団をバタバタと捲るロリリン。埃が巻き上がった埃が日差しに反射してキラキラと光った。




「おい!待って今起きるから!」



「おきろーおきろー」



「分かったから…」



「朝食よー今日はトーストだからねー!」



 一階からヴァイオラの声が聞こえた。またフランスでの騒々しい朝が始まる。




 今日は皆でショッピングに行った。これからクリスマス期間が始まり、店が休み始まるので、食材を買い溜めするようだ。



「えーと水と…野菜と…」


「あと、わたしもラーメンも食べたいな」



「……ああ」



「あれ…レン?どうしたの?」



「いや、何?」



「さっきから静かだね!」



「大丈夫だよ」




 全然大丈夫じゃなかった。なぜか俺はすごく悲しかったからだ。楽しそうにはしゃぐロリリンを見て何故か憎らしくなった。自分の感情が何故そうなったのか。上手く説明ができない…突然悲しくなったショッピングカートを押しながら涙が出そうになる。



 本当ならすごく楽しい時間の筈なんだけど…どうしても表情が曇る俺の顔をロリリンがちらちらと見てくる。ヴァイオラがレジでカートに入った商品を精算していた。



「ねぇ…あなたなんだか凄く悲しそうだよ」



「…いや、気にするな。特に理由はないんだ」



「ほら二人とも。行くわよー!ちょっと荷物持ってくれる?」




 ヴァイオラの呼び掛けで、俺はレジで赤毛の女の子の店員から荷物を受け取った。その子が俺を見て、クスリと微笑んで俺に挨拶した。



「Merci」



 その子の緑色に爛々と輝く目から目線を外せず、ロリリンは俺の手を引っ張った。



「ちょっと何デレデレしてるの!」


「ええ!いや、すまない」


「もう…」


「あらあらーあなたあの店員の女の子のことが好きなの?」


「ママ、何言ってるのよ…」


「いえ、なんか二人ともごめん。少しぼーっとしてました。それにさっきの女の子よりロリリンの方が可愛いよ」



「…まぁ、それならいいけど、レンは他の女の子見たら駄目なんだからね」



「うん。ほんとごめん」



「さて…家に帰りましょーか。私は仕事行くから。二人は家でゆっくりしてなさい」









 ヴァイオラが俺たち二人を家に届けた後、すぐに車を走らせて何処かへと行った。ロリリンと二人きりになった俺は今日こそロリリンとキスが出来ると思っていた。



 ふんふんふん~と鼻歌を歌いながらパソコンを弄る彼女を後ろから彼女を抱き締めた。そしてキスをしようとした。



「え…ちょっと!」



彼女は拒んだ。



「ロリリン。キスしたい…」



「はあ?」



「いや…」



「ねぇ、レン怖いよ」


 彼女は俺の目を見据えながら、日本語と英語で伝えた。'''あなた が こわい''


 それは子どもをあやすような話し方だった。俺は気にせず抱き締めた。首筋に軽くキス。彼女の甘い香りを嗅ぐ。



「Ahum ehh?…!」



「安心して…怖がらないで……」



「uhmmm..... non no...」



 細くて折れそうな体を抱き締めながら、何度もロリリンの耳元で呟いた。ロリリンはフランス語でぶつぶつ呟いた。




「恥ずかしい…」


「私はシャイなの」


「お願いだから止めてね。」


「落ち着いてね…」





 彼女はいきり立った狼をそんなガバガバな理論で諭した。ロリリンは冷静に取り乱す。その冴えた思考の、冷静さのなかに、緊張と動揺の感情が手に取るように分かった。





愛しい。





 しかし俺は大人で、彼女は18歳の子供だ…荒ぶる感情をどうにかして落ち着け俺は暖かい体からそっと離れた。それが無性に悲しかった。



「ごめん」



 彼女は普通に話そうと俺に提案した。


「もお…急にビックリしたよ」



「すまない…どうか、俺の事怖がらないで、嫌わないでくれるか?」



「嫌ってないし、怖がってないよ」


 ロリリンは顔をピンク色に染めながら答えた。俺はちょっとだけ安心した。その後色々と普通に話した。彼女の友達の事とか学校の事とかとりとめのない話だ。



「ロリリンは成績いいんだな」


「うん。私は250人いる中で30番以内にいつも入ってるの!」


「将来は大学に進学するのか?」



「勿論!パリの大学に行こうと思ってるの、でも成績が凄く大事だから…試験頑張らないといけないんだ」



「うん。ロリリンは凄いな…」



「ありがとう!」



「ねぇ!私絵を描くのが好きなの!」



「どんな絵?見せてみてよ」



「うーんとね。yaoiっていうやつなんだけど…みる?」


「お、おう」



 俺はBLにはまったく興味なかったが…絵を見るかどうか聞かれたので、俺が見たいと答えると、彼女は三階の自室からすぐに二冊の本を持ってきた。



「こっちこっち」



 そんなニコニコしたロリリンに俺の隣に座るように促した。彼女は素直に座った。



 すかさず肩を抱いた。お互いの太ももが密着する。ロリリンはまた体を強ばらせて緊張した。


「大丈夫だがら…」



 そんな彼女に構わずその本のページをめくった。内心、強引さに苦笑する。彼女の絵は控えめに言って、上手いとは言えなかった。


 しかし、その絵に彼女なりの一生懸命さと、自分の奇異なBL趣味を俺に打ち明けてくれたという信頼感を感じ、ロリリンがもっと愛らしくなった。


「ねぇ、全部BLなんだけと…こういうの好きなのか?」


「………うん」


「上手に書けてるよ」


「あはは…そうかな?」



 彼女の肩を抱き、密着しながら一緒にページを捲る。その時間が凄く幸せだった。


「その男の子とこの初老の男性はカップルなのか?」


「…うん」


「それで、この羽根の生えたイケメンと悪魔は…その…セックスはするのか?」


「…うん」


「男同士で出来ないだろ?」


「え…できるよ…あはは」


「どうやって…?」


「そんなの言えないよ!もーバカみたい!」



 まぁ、恥ずかしがりな彼女は、五分もしないうちに俺から離れてしまったが…しかし、ほんの少し離れただけだ。俺の側にいてくれた。


 彼女と一緒に、絵を見る。笑う。話す。俺は最高に幸せだった。間もなくしてヴァイオラが仕事が終わって帰宅した。いつものように夕食を三人で取った後、穏やかな時間を過ごした。










 そんな穏やかな雰囲気の中、まさかその後発狂しそうになるとは想わなかった。










 とりあえず、自分の気持ちを日記に書こう。ふざけるな。なんなんだよこんちくしょう。お前なんか大嫌いだ。

 初めから勘違いしていただけだった。俺の気持ちはもう冷めた。どうせ俺は日本人だ!何がビーエルだふざけんな。おれをなめやがって…どうせ俺のことなんかなんとも思ってないんだろ?ロリリンは俺の気持ちに答えてくれない。




 どうしてシャルロットと話してるときはそんなに楽しそうなのに俺と話してるときは気まずい雰囲気なんだよ。俺のことが嫌いなのかよ。嫌いなら嫌いって言えよ。気まずいなら気まずいって言えよ。



 俺はいつでもこの家から出ていけるよ。こんなとこ出ていってやる。どうせ好きじゃないし!


 もともと海外にいきたかっただけだ。俺はただお前を利用しただけだ。都合のいい女なんだよお前はホントに馬鹿みたいだぜ!何が君が好きだ、ふざけんな俺はお前なんか大嫌いだお前だってどうせ俺のことが嫌いなくせに、なんで俺を受け入れないんだよ!



 マジで俺はピエロだ。俺の事を笑えよ。間抜けなJapだ。糞みたいな金なんか要らない。俺は本当の愛が知りたくて本当の温もりがほしかっただけなんだ。愛も温もりも知らずに日本で生きるなんて嫌だ。



 俺は夢が欲しい。夢を理解して支えてくれる特別な人が欲しかった。分かってるよ夢が所詮夢でしかないことなんて。そんなこと分かってる。


 俺は無性にイラついた。ロリリンの気持ちを裏切ってやりたかった。彼女を傷つけたい。ぶっ壊してやりたい。この旅行も彼女のプロムも…


 お前なんか嫌いだ。俺は勘違いしてただけだ。お前とはわかり合えない。お前と一緒なんて絶対嫌だ。マジでムカつくぜ。思わせ振りな態度を取って…



 好きになんてならなきゃよかった。儚い夢に過ぎない。


 カトリックだかなんだか知らねぇが、哀れで間抜けで馬鹿みたいなjapにもどうか神の祝福をください。マジで頭に来た。自己中で糞みたいな感情をノートに書き込んでストレスをぶちまけないと収まらない。


 ぶち壊したい気分なんだよ何もかも、だから許してくれ。誰だってそんなときあるよな…?













 事の発端は、シャルロットが自宅に訪ねてきた事から始まった。シャルロットはロリリンの大親友の女友達で、学校ではいつも一緒にいるみたいだった。ロリリンは玄関先で俺とシャルロットに交互に紹介すると、彼女を家に招き入れた。



「初めまして、シャルロットです。以後お見知りおきを」


「初めまして。日本から来た佐久間連です。君はロリリンの親友なんだよね?宜しくな」


「ええ、長い付き合いだわ。ねえ、ロリリンは学校でいつもあなたの事話してるわ。だからあなたの事ちょっと知ってるのよ」



「それはちょっと恥ずかしいね…はは」



「そんなことないんだから!」



 ロリリンはシャルロットの前では別人のようにテンションが変わった。凄く嬉しそうだ。




「今日はねーショッピングに行ってきたの!いっぱい買ったのよ!」



「あらそれは良かったわね」



「ラーメンも買ったの!」



「あらそう」



「私料理してみる!」



「あらロリリン、カップ麺にお湯を入れることは調理とは言えないわね」



「シャルロット!!xxxxxxxx!!」


「xxxxxxxxxxx~xxxxxx」


「Ahaan lauleine! xxxxxxxxxx」


「xxx??xxxxxx!!」



 目の前で繰り広げられる超高速のフランス語。俺は置いてけぼりになった。ロリリンは、シャルロットの前で話すとに性格が変わる。俺と二人でいる時は大人しい猫みたいな感じだが…今は天真爛漫なライオンみたいだ。本当に性格が違う。とても可愛い性格になる。初めはそれがたまならく愛しく思えた。しかし…




「xxxxxx!」


「xxxxxxxxx~」





 でも、なんか違うんじゃねぇか?と二人の会話を見ながら感じた。だって俺と話すときアイツは表情が凄く固いんだ。声色も顔つきも身ぶり手振りも何もかも違う…長年親しんだ友達の目の前ではそんな顔するんだな。



 よく考えれば当たり前の事だったが…ショックだった。



 二人は俺を無視してどんどん盛り上がっていく。それもちょっと傷ついた。俺はソファーに座りながら凄く気まずい時間を過ごす。意味もなく立ち上がったり、座ったり、腕を組んだりとまったく落ち着かない…




「それじゃ…レン。ロリリンの事よろしくお願いします」


「もう。変なこと言わないの!シャル」


「あぁ…任せてくれ」


「あら…?まぁ…それでは二人とも良い夜を」


「ばいばい!シャルロット。また学校で会おうね!」


 二人でシャルロットを玄関まで送ると…ロリリンは急にテンションが下がった。



「はぁ、ダイニングに戻ろっか」


「うん…」


「…」


「あー…」



 ロリリンは俺を見ない。ちらりとも見ない。下を向くかあさっての方を見ながら話すのだ。目が合わない。



「コーヒー飲むか?」



「いらない」



「…そうか」



「…」


 シャルロットと一緒にいる時みたいに、あんなに話も長く続かなかった。メチャクチャ楽しそうに、幸せそうに話す彼女を見て…なんだか俺は心の底から冷たくなっていく音が聞こえた。


 俺は彼女にとって特別じゃない人間なんだ。そんなことわかってる。いやわかってた。だけど俺は特別になりたかった。でもダメなんだ。お前は俺を受け入れない。お前はこんなにも遠い。


「ロリリン…」


「ん…」




俺は彼女の隣に座って、肩を抱いた。




 いつもなら胸がドキドキするはずなのに、心臓は死んだかのように静かだった。それは彼女との心の距離が遠いからだ。



「…」



「……」



 まさか…俺は背筋が凍るような思いをした。その時まで、俺は彼女に恋してると思った…でも本当はロリリンを抱きたかっただけじゃなかったのか…と。



 そんなもの日課の性処理となにが違うんだ?これは性欲であって…恋じゃない。俺は今頃気づいた。ロリリンと俺にとって致命的な問題だと思う。




 ガシャンと、何かが壊れて…心のシャッターが閉まる音が聞こえた。俺の中でもう終わってる。もう修復できない。思いはバラバラに砕け散った。


 俺の心はその破片で深い傷を負った…彼女は何もしていない。彼女はミスはしていないのだ。それは絶望的にいつもと変わらない対応だった。いつもと同じように俺を遠ざけた。ロリリンは俺に対して壁を築いたのだ。それに気付いた。幸せは死んだ。






 彼女は違ったんだ。俺はたぶん彼女が期待してたような男とは違ったんだ。期待に答えられなくてごめん…俺は君を好きになっていいと思った。でも君は違ったみたいだ。所詮住む世界が違った。ロリリンはフランス人で、しかも裕福で頭のいいお嬢様だ。お互いに周波数が違うから、一緒になれない。




 彼女は優しすぎるから、俺に対して何も言わず、強く出れないだけで…本心は俺にたいして違和感を感じてるんじゃないのだろうか。その違和感が、彼女を固くさせ、緊張を伴った態度になる。




 俺がいくら頑張ったところで無理だ。何をどう頑張ろうが違うものは違うんだ…




「もう寝よっか」



「…うん」



 時計を見ると、もう夜の11時だった。俺はロリリンから離れて、シャワーを浴びにいく。なんかもうどうでもよかった…もう死にたい。


 あまりにも惨めで…恥ずかしくて…俺はこの世から消えてなくなりたかった。この間まで、人生で一番楽しかったのに…



「人生って上手くいかないな…」












<そして束の間の視点交代>









 私は部屋に帰って、シャルロットの今日の会話を思い出した。シャルが、変なことばっか話してきたのでなんだかレンと気まずくなっちゃった。頭の中でその言葉がリフレインする。



「ねぇ、ロリリン。あなたもうレンとは寝たのですか?」


「はえええええ!?」


「だって、年頃の男女が毎日同じ屋根の下で生活してるのよ!」


「そ、そん、そんなのないよ!」


「すぐ赤ちゃんが出来ちゃいそうですわ」


「ちょっとシャル!」


「それに…彼って思ってたよりもハンサムだわ。鼻と唇の形が綺麗…目付きも鋭くて…野性的なオオカミみたい」


「シャル!!!私のレンなんだから狙わないでね。親友でもそこは一線を引くよ」


「あらあらお熱いこと。二人の時間のお邪魔をしてごめんなさいね」


「うぐぐぐぐっからかったなあーーーー!」







 私は凄く恥ずかしくなって布団を被ってバタバタ足を動かした。彼が家に来てから心臓がドキドキしっぱなしで落ち着かない。レンの顔をまともに見れない…


 昨日と今日、発情した犬みたいになって私を強く抱き締めてきた…なんだか…毎日無理矢理襲われてるみたいで凄く興奮する。



「えへへ…私の、日本から来たヘンタイ柴犬…」



 私は足をモジモジしながら体に優しく触れた…彼の事を考える。


 あ!そういえばショッピングの時に鼻を伸ばしてデレデレしながら別の女の子の事見てた!


 駄目なんだから。私が女の子の接し方を教育してあげなくちゃね…女の子を嫉妬させたり不安にさせたら紳士失格なんだからね。フランス流の紳士精神を私が教えてあげなくちゃ!


 「明日はレンに市内を案内しようかな…それとも水族館に行こうかな?」



 私は彼の喜ぶ顔を想像して目を瞑った。



「今夜も素敵な夢が見れますように…」





その作品を勢いで書いてて恥ずかしくなってきた作者です。

とりあえず皆様読んで頂いてありがとうございます!

ハードボイルド戦争描写と甘酸っぱい恋愛描写が行ったり来たりで作者の頭が爆発しそうです…/////

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