001.目覚め
『・・・やっと・・やっとだ・・・』
『・・・これで・・ようやく果たすことができる・・・』
『・・・彼女との約束を・・これで・・・』
「・・・うっ」
大音量の謎の高音により意識を奪われた修哉は再び目を覚ました。
(な、なんだったんだ、あの耳障りな音は・・?)
そしてあることに気付く。
(ん?どこだここは?)
修哉が中途半端に覚醒した頭と未だに少しぼやけている視界で周囲を見渡すと、そこは明らかに自分がいた学校の教室ではなかった。
目覚めた彼がいるのは、直径30m、高さ10mほどの広さを持った円柱状の空間だった。壁、床、天井そして一つしかない扉に至るまで純白の石でできた部屋であった。部屋の中には明かりのようなものは存在しておらず、代わりに純白の壁や床、天井がほのかに光を放っていた。
(なんで石が光ってるんだ?)
(蛍光塗料?もしくは中に光源が埋め込まれているのか・・・)
周辺の淡い光のおかげで修哉は周囲の様子をきちんと確認することができた。360°周囲全体を覆いつくす荘厳な白の中で、修哉自身と未だ倒れ伏したままの彼のクラスメート、そして床全体に描かれた幾何学的な模様だけが遺物のように存在していた。
(この床の模様・・何かの図形か?)
(一部の模様は文字のようにも見えるな・・だがこんな文字は少なくとも16年間生きてきた中で一度も見たことがない・・・)
次第に覚醒が進んでいく頭で修哉はそのようなことを考えていた。
この状況で光る石や床の幾何学模様のことばかり考え、床に倒れ伏しているクラスメートを心配するという考えが全く思い浮かばないのは修哉がこの異常な状況で一時的な混乱状態に陥っているからではない。単純にクラスメート達に一切の関心を持っていないからだ。
そのため彼はクラスで浮いていた。修哉自身は意図してやったわけではないが、むしろ自ら浮こうとしているように周囲からは見えた。
「・・ううっ」
「・・ここ、どこ?」
「・・あの音なんだよ・・・」
「・・頭ガンガンする・・・」
修哉が思考に励んでいると、やがて周囲のクラスメートたちもちらほら目を覚ましだした。目を覚ましたクラスメートたちは皆しばらくボーっとしていた。
(ああ、こいつらいたんだったな・・・)
(目を覚ましてすぐだからか、いつもより三割増しで阿保面だ、と思う)
(顔、あんまり覚えていないから多分だけど・・・)
やがてあの異常な高音とそれにより自身が意識を失ったことを思い出し、今いる場所が明らかに自分たちがいるべき見慣れた教室ではないことを認識する。すると周囲のものと話し出し、次第に騒がしさを増していく。そんな時だった。
ガチン!!ゴゴゴゴゴ・・・!
部屋の中にたった一つしかない扉が大きな音を立てて開き始めた。扉の向こうは暗く先が見えない。
(なんだ?)
(ん?扉の向こうから人の気配が・・)
修哉がそんなことを考えていると、ゆっくりとした歩みで暗闇の中から神々しい程豪華なドレスをまとった、この世のものとは思えない美しさの女性が姿を現した。その女性に付き従うように、中世風の鎧をまとい、鋭い目つきをした身長2mmを超す熊のような髭面のオッサンと、痩せ型で色白、いかにも不健康そうな剥げかけ頭のオッサンも続けて部屋の中に入ってきた。
オッサン二人を従えたその女性は修哉とクラスメートたちを見渡し、やがて口を開いた。
「異世界の勇者たちよ、私達の呼びかけに答えて下さり感謝いたします。ようこそ私達の世界ハルメリアへ」