第一章 原因解明#4
俺はじめを強く蹴る。
時間が飛んでしまう。
そう思った瞬間、躰が勝手に動いていた。
全速力で走って走って白光が目の前に広がった瞬間、身体が一気に軽くなり、ふわりと浮きあがる。
正気を保とうと、俺は必死でもがいた。
しかしそれはあっけなく打つ破られ、俺の気が遠のく。
――どの位時間が経ったのだろう?
目を覚ました俺は、努と目が合う。
しばしの沈黙が続く。
霞がかかったように、頭が冴えなかった。
白い閃光が走り、当たりが一瞬明るくなる。
「ちょっと、しっかりしてよ」
その声にハッとなる。
初めて自分の体温も、奪われてしまっていることに気が付く。
震えが止まらなかった。
見ると、努の唇が、青紫に代わってしまっている。
まずい。
俺は必死で、甘え足を使い、努の顔を叩く。
低く唸った努が、目を開く。
上手く、補正できているのか俺には自信がない。
虚ろな目だが、俺の存在を疎まない様子に、少しホッとなる。
「目が覚めたか?」
努がコクンと頷く。
「よし、帰るぞ。さっさと支度をしろ!」
俺は躰を振るい、水しぶきを飛ばす。
時空を渡るのにも、多少は慣れたはずだが、躰のいたるところが痛む。
ノロノロと立ち上がった努を見止めてから、俺はゆっくりと公園を出て行く。
厄介なことに巻き込まれてしまった。これが俺の本音だ。
俺は、この仕事を受けてしまったことに、本気で後悔をしている。
足を止め、俺は振り返る。
びしょ濡れになった努が、操り人形のように俺の後へ続き歩いて来る。
いつの間にか雨は上がり、青空を退かせていた。雷だけが余韻を残し遠くでゴロゴロとまだ鳴っていた。
「それでも、やるしかないのよ。今度は慎重にね」
「誰だか知らんが、ご忠告どうも」
雨粒を残す葉先が光る。
俺は姿が見えない相手へ、敬意を表す。
さてと、始めるか。
俺は覚悟を決め、向き直る。
どうにも俺は、お人よしの傾向があるようだ。
小気味よく、一定のリズムを保ち、尻尾を揺らす。
白い壁伝いを真っ直ぐ進み、煩いぐらい花が飾られている家の前を通り過ぎる。細路地を入り、門扉に立てかけられた自転車を見て、俺は足を止めた。
玄関には、赤いペチュニアのハンギングがぶら下げられていた。
俺は爪を立て、ガリガリとドアを引っ掻き始める。
もっともらしく、猫の鳴き声を上げた。
間をあけず、ドアがパッと開く。
俺に緊張が走った。
「ママ」
「努! 今までどこに行っていたの?」
二人の声が同時に重なり、俺はニヤッとする。
まずまずの仕上がりに、俺は満足だった。
本来なら、この時間は努には存在しないものである。
母親の足を縫って、俺は中へと入って行こうとする、それはすぐに阻止されてしまう。
母親が、俺の躰を救い上げたのだ。
「トキ、時が努を見つけて来てくれたの?」
目線を合わせられ、俺は手足をばたつかせる。
「ママ、この猫のことを知っているの?」
母親の目線が横にずらされる。
「何を言っているの?」
声に重みがある。
うーん。やっぱり失敗。
母親の手から逃れた俺は、努の顔を見上げる。
「目を瞬かせるのよ」
え?
「早く、話がややこしくなる前に」
「ああ」
俺は慌てて目を瞬かせた。
カチカチ。
微かに頭の中で、秒針が微かに動く。
「良いから、中に入って。早くシャワーを浴びないと風邪を引くわよ」
呆然と突っ立ている努が中に入れられ、閉まりかけたドアの向こう、白猫がこちらをじっと見ていた。




