第一章 原因解明#2
まだ飛び方が上手くないのか。またずれちまったらしい。ここはいつごろなんだ?
軽く嘔吐した俺は、辺りを見回す。
躰がフラフラとしていた。
最悪な気分だった。
ん?
今確かに目の前を、何かが通り過ぎたような気がした。
俺は気配を感じた方へと渡ろうとした瞬間、ギョッとなる。
道のど真ん中、俺目がけて勢いよく自転車が迫って来ていた。
逃げなくてはと思うが、躰がどうにも言うことを聞かない。
瞳孔が全開になる。
瞬きをすればいい。どうにかなる。頭では分かっている分かっているのだが、俺は迫って来るものを凝視したまま、微動だにも動けずにいた。
ブレーキ音が甲高く響く。
自転車がよろけながら、俺を避けて倒れる。
「痛い」
その声を聴いて、俺はやっと呪縛から解かれたかのようにその場から飛び退く。
ここは謝るべきだろうか。
膝を抱えてべそをかいている少年の顔を覗き込み、大丈夫かと尋ねた。
転んだことがショックだったのか、ひざのすり傷が痛むのか定かではないが、俺の声に反応を示さなかった。
まぁ声を聴いて、その相手が誰なのか、俺は想像がついていた。
「だから努、大丈夫かって聞いてんだよ。こんなところでぐずぐずしていると、車に轢かれちまうぞ。て、本当に来やがった」
クラクションを鳴らされ、努は慌てて端へと避けて行く。
どういうことだ?
努は全く俺に気が付く様子なく、行ってしまった。
「あんたね、素人過ぎ」
その場で呆然と立ち尽くしていた俺は、突然話し掛けられ、びくっとなる。
それがいけなかったのか良かったのか……。気が付くと、努が目の前に現れていた。
チャイムを鳴らされ、応対に出てきた女が、努を見てあからさまに顔を歪める。
誰だこいつ?
「本当に約束したの?」
言い方がやらしいかった。
口の中でごにょごにょ言うばかりで、努ははっきりしないでいる。
だからそういうとこが、付け込まれるんだって。
俺は歯がゆい思いで、努の背中をじっと見つめる。
「努君、うちの忠志だけじゃなくてさ、もっと友達の輪、広げなさいよ。ね、おばちゃん、悪いこと言わないから、そうした方がいい」
嫌味な女。笑顔を振りまいているけど、目、笑ってないぞ。って、ここからか。最初に会った時、確かに努の口から出ていた名前だ。
追い返されるように努は踵を返し、止めてあった自転車をものすごい勢いで漕ぎ出す。
その様子を、あの母親が嫌悪感丸出しで見ているのを、俺は確認すると、努の後を追いかける。
少し、あの親子にもお灸を据える必要があるな。
「ダメよ。それは違う時限の問題よ」
「誰だ。俺が分かるのか。もしかして天の声なのか」
少し、声質が違うと思われるが……。
返答は戻って来なかった。
代わりに風がざわつき、近くの小枝が揺れる。
俺は首を竦め、尻尾を大きくひと回しする。
カチン。




