エピローグ#6
家に帰る前、自分が生まれたという家を見てみようと交差点を左に曲がり学校の前まで出た努は、一旦車を降り、辺りを見回してみた。
校門を背に真っ直ぐ伸びる通学路。
努はゆっくりと車を走らせる。
微かにチャイムの音が聞こえ、子供の笑い声が聞える。
――カチカチ。
風に乗って音楽が聞えてきた。
この音楽、聴いたことがあるなと思いつつ、ゆっくり流れる景色を眺める。
何でもない街の風景だ。
煩いぐらい花が飾られた家の脇を通り、犬を連れた人が散歩している。幾本にも出ているわき道。
どんどん記憶が蘇って来る。あの角を少し行ったところが努の家だ。
――オルゴールの音?
美しい音色が、乙女の祈りを奏でていた。
美耶子がベッドの脇に座り、オルゴールを自分の耳に当てていた。
目を覚ましている努に、気が付いた美耶子が微笑む。
「おかえり」
「ただいま」
努も微笑み返す。
途切れた記憶が繋がる。
俺は辛うじて、リサを見つけ出していた。
全部使い果たす前に、俺の時間を分け与え、最後の仕上げに入ったのだ。
嘘の中の真実を見せることで、拭われる罪もある。
にこやかに言う天の声を、俺はまじまじと見ていた。
公園のベンチにどっかと座り空を見上げる。
九月もそろそろ終わりだというのに、残暑が厳しかった。
努は、ネクタイを緩める。
両親の遺体が見つかった。
二人を迎えに行った帰りに、努はここへ立ち寄ったのだ。
どこまでも青い空に白い雲。風は季節を運び時間は巡り巡って、僕は大切なものを見つけた。
ぼんやり努は何度も夢の中で出てきた猫のことを思う。
不思議な夢だった。
何度も繰り返し、僕らは時空を旅をした。
努は大きく伸びをして。立ち上がる。
サーッと一陣の風が吹きぬけ、ブランコが微かに揺れる。
ゆっくりと、新しい時間は確実に刻まれていく。
人は時々気付けなかったり、忘れてしまったりすることがあるけど、必ず時間は動き始める。
諦めないで待っていてくれる人が、僕にはいる。いるんだよ。父さん母さん。だから、もう大丈夫。
今度は自分の力で、自分の足で、時間を刻んで行ける。
一本の飛行機雲がどこまでもどこまでも長いラインを引いていく。
晴れ晴れとした気分の努だった。
あれは夢で終わらせたくない。と努は空を渡って行く雲を眺めながら思う。
トキ、君は見えないけどいつでも、僕の中に存在してて、たゆまず刻まれているのだと……。
明日という君に逢うために僕は今日を生きる。
そして未来に繋がり、僕もいつか君になる。
時間は巡り巡っていく。ゆったりと気まぐれな猫のように。
努は、足早に公園をあとにする。
木の下、二匹の猫が寄り添うように、その様子を見ていることを、努は気が付かずにいた。
「さてと、次の仕事へ行きますか」
「ああ面倒」
「リサ、性格変わったか?」
「いいえ、むしろこっちが本来の私で」
グワッと大きな欠伸をしたリサの目から、涙が一粒零れ落ちる。
「後悔しているか?」
「別に。阿吽たちには、怖い顔されちゃったけどね」
「そりゃそうだろうな。一人で済むところを、二人並ばせちゃったんだからな」
「商売繁盛で、結構なことじゃない」
「リサ。バカ。口を慎め。天に聞かれでもしたら、今度こそヤバいぞ」
「あらそう。この短めの尻尾、結構気に入っているのよ私。持久力には欠けるけど、あんたと一緒に、行動することを義務つけられちゃったことだし、何とかなるでしょ」
リサが駆けて行く後を、俺は追いかけ、追い越していく。
リサは振り返り、短く鳴き声を上げた。
俺たちは時間の修理屋。
歪んでしまったあなたの時間、補正させていただきます。
ご用命は……、天が知るのみ。
(おわり)
えっと、これはだいぶ前に、一気に書き上げたものです。
ちょっといじめに苦しんでいた子がおりまして、励ますつもりで書いたものを、少し手直ししての発表です。
我ながら、文、下手で笑ってしまいます。
最後までお付き合いくださった方々、本当に大感謝です。
この場をお借りして、
我慢することも大切だと思います。打ち明ける勇気も、並大抵なものではないとも知っています。どうかどうかあなたのイタミが、分かってもらえる人に、巡り合えますように。
そんな願いを込めて、この物語を結びたいと思います。
あなたは一人じゃないよ。ほら顔を上げて……。




