第五章 動き出した時間#7
「あっぶねぇ」
冷や汗をふき取りながら、俺はリサを見る。
わずかな時間のずれだった。
なじられるかと思ったが、リサは何も言わなかった。それどころか、俺を努の中から取り出し、今度は、自分が中へと入って行ってしまう。
「リサ?」
階下に降り立った努は、はたと足を止める。
階段下に備え付けられた扉を開いたかと思うと、腰を屈め、中へ首を突っ込む有様に、俺は苦笑する。
あいつ、何をやらせているんだ?
中のものが、一つ一つ出され、あっという間に荷物の山が出来ていた。
さんざん引っ掻き回せてから、リサが疲れた顔で出てくる。
「何をさせているんだ?」
「プロセスよ。いきなり思い出して、ジャジャジャンていうのはねぇ」
「面倒くせぇ」
「うっさいわね」
諦めて、リヴィングへ入って行く努の後姿を見たリサが、良しと呟く。
ソファーに深く腰かけ、努は何気なくテーブルへ目をやる。
テーブルは、ちょっとした細工がした品物だった。
真ん中がガラス張りにされていて、その中に好きなものを飾られるというやつだ。
母親が、一目ぼれをして買ってきたのは、努が中学生だった頃の話。
青色のクリスタルが敷き詰められている上に、黄色いバラが三本入れられている。その茎の根元、木こり風の小人が一体、立たされていていた。
番人ってところかな? ママらしいとフッと、努は笑みを零す。
母親がこれを好んだのが、少し分かるような気がする。
――心が落ち着く。
ずるっとソファーから腰を滑り落とし、ソファーにもたれかかるように床に座った努は、テーブルに頬杖を付き、それを眺める。
ユラユラと振り子のように俺は尻尾を揺らす。
やるべきことは分かっている。
どう足掻いても、どうにもならないことがあるということも、俺は多分、分かっている。
けど、チラッとリサを見る。
こいつの望み、叶えてやってもいいかなと思った。
リサが静かに、一歩前へ踏み出す。
一秒の狂いも許されませんよ。
天の声が残していった一言が、頭で繰り返される。




