第四章 途切れた時間#6
温泉の入り口には、多田がニコニコと待っていた。
「はい、ご苦労様。これに記入して班員全員の直筆でサインしてね」
多田は、鉛筆と紙を渡す。
その紙には答えと推理の裏づけを書く欄があった。
健一が、皆に聞きながら記入していく。提出しに行った健一が泣きそうな顔で戻って来た。
「どうした?」
健一は重い口を開いた。目には涙が溜まっている。
「暗号文も一緒に提出だって」
「うん。それがどうかしたの?」
忠志が、不安そうに尋ねる。
「ないんだ、一枚。誰か持っていない?」
健一は②と③の暗号文を見せると、大きな溜息を吐いた。
「最初のか?」、
忠志の問いに、健一は頷く。
「一応、ないと思うけど身の回り確認した方がいいよな」
耕基が力なく言うと、持ち物やポケットと思い当たるところを探し始める。
「それがないと、どうなるんだ?」
忠志の問いに、健一が力なく答える。
「失格だって」
「まじ?」
どんよりとした嫌な空気が広がり、責める目つきで、耕基が健一を見やる。
ふと思いついた努が、胸ポケット弄る。
「あった!」
皆より遅れていた努は、この紙切れが落ちているのを拾っていた。中身を確認する暇もなく急かされて、ポケットへ入れたのを忘れていたのだ。
努は、小さく折りたたんだものを皆に差し出す。
それは紛れもなく暗号文だった。
「何で早く出さないんだ!」
忠志が突っかかってるのを、耕基が止めた。
「忠志、話は後にしろよ! これ出さないと」
もう何班か提出を済ませている。
1位は絶望的だけど失格だけは間逃れた。最終の班がゴールして、ウォーク・ラリーは終了した。
長い教頭先生の話もやっと終わり、いよいよ順位発表だった。
「まず、順位を発表する前に総評をします。皆さんは、到着順と思っていると思いますが、違います」
周りがどよめく。
「あくまでも授業の一環なのでね、栞にも書きましたが、協力性と自主性を養おうという目的がこの林間学校にはあります。公平に審査委員の先生方が点数を採点しました。いいですか? 最後のゴールで紙に記入もしてもらいましたね。それは推察力が出来ているかという事と班の人たちの姿勢を見るという目的がありました。後もう一つ、大切なものという認識力です。これは最後の暗号文回収によって確認させてもらいました。皆さん、暑い中よく頑張りました。順位なしにここで全先生たちより栄誉を称えます。では、長くなりましたが、順位を発表します」
佐伯先生が順位発表を始めた。耕基はすっかりしょげ返って、まともに佐伯先生の話を聞いていなかった。
3位が呼ばれ、2位が呼ばれた。僕たちは十位の入賞も出来なかったのかと落胆の色は隠せずにいた。健一はすっかり責任を感じて涙ぐむ。
「1位、4組、2班。代表、長岡君前へ」
だから、佐伯に自分たちの班を呼ばれても、誰も気が付かずにいた。
近くにいた班の子たちに小突かれ、健一が慌てて前へ出て行く。
思いがけない勝利に、誰もが目を輝かせた。
目まぐるしく過ぎて行く時間に、体力を奪われ、最後の余力で一気に前へ進めた俺はその場で崩れ落ちてしまう。
「ダメよ。あともうひと踏ん張りしてもらうわよ」
俺はリサに抱えられ、時間を飛び越す。




