第四章 途切れた時間#1
このやり方は実に不本意で、気にくわんのだが、手っ取り早いという点は無視はできん。
「ねぇどうせなら」
不意にリサの声が耳になだれ込んできた。
笑いをかみ殺した声に、俺な嫌な予感を覚える。
チリン。
「おやすみなさい」
は?
反論する暇もなかった。
「ごゆるりとお楽しみあれ」
憎ったらしいリサの声が消え、完璧に思考は努へ切り替えられてしまっていた。
朝、寒くて目が覚める。
隣で大の字になって腹を出して寝ている祐太の足をどかす。無意識に時計を外して遠くへ飛ばしている健一を跨ぐ。急に寝返り打った耕基に、ドキッとさせられながら、最後の関門忠志を起こさないように靴を履き、表に出る。
ひんやりした空気が、頬を撫でる。
この感覚、前にもどこかで味わったことがあるなと思いつつ、努は歩き出す。
「おはよう。随分、早起きさんね」
担任である佐伯と多田に遭遇してしまい、努は俯く。
「おはよう。丁度いい。これから皆を起こしに行くところだから、一緒に行こう」
上目使いでチラッと、佐伯を見る。
「おしっこ」
二人が噴き出す。
「おお。早く行って来い」
駆け出していく努へ、ここで待っているからな。と付け足してきた。
努は困惑しながら、トイレへ駆け込む。
冗談だと思った努は、トイレの前で待っている二人を見て、目を瞠る。
「考えたら、永田は係の仕事をしていなかったなって気が付いたんだ。公平さを図って、きみには目覚まし係を務めてもらうことにしたんだ」
ニコニコした多田に腕を掴まれ、努は無意識でそれを払おうとするが、がっちりと掴まれてしまって、引きずられるようにバンガローを回り始める。
「これじゃ強制連行される犯人になった気分だ」
努のボヤキに、二人は笑うばかりで、手を放そうとはしなかった。
多田は髪を一つに束ねサンバイザーを被っている。
「気持ちの良い朝ね。夕べは良く眠れた?」
「ほら、しゃんとして歩きなさい」
佐伯が努の丸まった背中を治し、笑う。
全部のバンガローを回り切る頃には日差しが強まって、首の辺りがヒリヒリとして痛くなって来ていた。
やっと解放された努の顔を見るなり、裕太が飛んできてた。血相を掻いた顔からは大粒の汗が流れている。
「何?」
バンガローの裏手に引っ張てこられた努が小声で訊くと、キョロキョロと落ち着きがない様子で、祐太はぼそぼそと口の中で何かを言う。はっきり聞き取れずにもう一度聞く努に、真っ赤な顔が近づけてきた。
「昨夜の事、シーッだからな。絶対に誰にも言うなよ。分かったか?」
一瞬、何のことが分からずにいた。
「昨夜って?」
「もういい。あのことを喋ったら許さないからな」
そう言い残して去って行く祐太を、努はきょとんとして見送る。




