第三章 友達なんてさ#4
午後の教室は薄暗くだるい。
努は、どんよりしてきた空をぼんやりと眺めていた。
担任は、いつもなら生徒たちの自主性を高めると言って、学級員の健一に任してしまうのだが、今日は雲行きがおかしかった。
「えーと、班については原点に帰るという意味で名前順に組ませてもらいます」
担任が言うと一斉に、ええーという不満の声が教室中に響いた。
「これは決定です。あくまでも勉強に行くのであって遊びに行くのではないから」
それがこの結果である。
担任に殺される。
本気で努は思った。
母親と父親に執拗に、参加しなさいと説得を受けた時、この話をしようと思った。がしかし、そのことは言えないまま今日を迎えてしまっていた。
「あれ? 中に入らないの?」
努は驚いて振り返ると、布団を抱えた多田が立っていた。
「丁度良かった。これ、半分持ってよ。重くって……」
ぽっちゃりしているとはいえ、小柄な体格の多田は布団で目の前を塞がれていた。
「早くぅ。重いの」
努は多田に急かされ、仕方なく一枚取る。
「有難う。あぁ、少し涼しくなった。ついでにノックしてくれると嬉しいな」
この笑顔には逆らえない気がする。
ただに促され、努はドアを二回ノックする。
「お届け物です」
いち早く、反応してドアを開けたのは耕基だった。
耕基は多田先生から布団を受け取り部屋の隅に運んだ。
「永田君もあの上に積んでね」
多田の永田君。と言う言葉に、皆が敏感に反応するのが痛いほど伝わってきた。
冷たい視線が努の背中に集まる。
「ここの班長さんは誰?」
多田が尋ねると、健一が渋々、僕ですと答える。
「長岡君か……」
「何ですか?」
強気で健一が出ると多田はニコッとした。
「別に意味はないの。ただね、ここではすべて班行動をして欲しいの。不慣れな中の学習は危険も伴うから、きちんと点呼だけは欠かさないでね。これは先生たちからのお願い。長岡君はしっかり者だから、きちんとその責任を果たせると信じているけど、念のため
言っとくわね。もうそろそろ、夕飯の準備が始まるから炊事場に4時までに集合してね。忘れ物、落し物のないように来なさい」
嫌な空気が漂う。
忠志たちの視線が、時折努に刺さる。
健一は引きつった笑顔で誤魔化す。耕基と裕太は忠志の様子をそっと伺う。忠志は真っ直ぐに多田を見ていた。
挑発的な目だ。
多田はビクともせずに忠志に微笑み返す。
明らかに忠志の負けだ。
重たい空気を破ったのは健一だった。
「あと、10分で4時だな」
健一はさりげなく腕にはめた時計を見て言うと、裕太がそれに気がつき飛びつく。
「すげー、いいな。買ってもらったの?」
「班長だから必要かなって思って」
「俺もさ、欲しいって頼んだけど、各班に一つあればいいって。おまえはすぐに失くすからダメだって言われちゃってさ。いいなぁ」
「俺も言ったけど、健一の母ちゃんがうちの子に持たせるから良いわって言ってたからって買ってもらえなかった」
不満げに言う耕基に悪いと健一は謝ったけど、全然誠意が認められない。むしろ得意げな笑みを浮かべている。
話に加わろうとしない忠志を努はそっと盗み見る。ムッとした表情。完璧に忠志の悪い癖が出ている。
「なぁ、忠志も見せてもらいなよ。結構カッコいいよ」
裕太は躰のわりにはこういう気を回す。
「変なの。それ、千円でよく売っている奴じゃん」
忠志はそっぽを向いた。
健一がムッとして黙り込む。最悪。嫌な空気が広がる。
裕太がそわそわして、二人の間に挟まれ行き場に困っているのに比べ、耕基はこういう判断は早かった。首をすくめ、自分だけ靴に履き替えている。
「裕太、行くぞ!」
「待ってよ」
耕基に促され、裕太が踵を踏んづけて追いかけて行き、健一もそのあとに続いた。




