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第二章 僕は透明人間#6

 シーンと静まり返った教室を見回し、俺は愕然となる。

 努が母親に連れられ、調度出て行こうとしていた。

 微調整がまだうまくいかないのだ。

 「あっ、違った。もう少し前だ」

 どうしてこんなに必死になっているのか、自分でもよく分からなかった。

 躰が勝手に動いてしまう。これが正直なところだ。気が付くと、そのまま教室のドアに向かって駆けて行き、寸前で飛び上がった俺は、次の瞬間、見事な着地を決めていた。


 ガヤガヤと賑やかな教室の隅に出現した俺は、サッと物陰へ身を隠す。


 忠志が、俯いて座っている努の机に、ずっと椅子をぶつけて遊んでいる様子を見T、俺は舌打ちをする。

 

 バランスが崩れ、焦った忠志の手が思い切り努へぶつかる。

 その瞬間、、努の中の何かが弾け飛ぶ。

 机を強く押し返し、文句を言ってきた忠志に、努は机の上にあった鉛筆を振り上げた。

 やられっ放し、言われっ放しの努の反撃に、誰もが固唾をのんだ。

 女子の悲鳴と、担任の、何しているんだ。と言う怒鳴る声が重なり、白いものが飛び交うのを、俺は見落とさなかった。

 したりという顔で振り返ったリサが、そのまま済ました足取りで教室を出て行く。

 

 どういうつもりなんだあいつ。


 そして、恐ろしいほどの静寂しきった教室に、努は一人取り残された。

 「永田、先生の話をちゃんと聞いているのか? 今回は大事にならなかったから良いものの、一歩間違えれば命取りだぞ。このまま黙っている気なのか?」

 何も悪い事なんかしていない。喉まで出てきた言葉を、努は飲む。

 

 ここは大事にケアをしようと思った俺は、グーンと出来るだけ躰を伸ばす。


 ゆっくり流れる時間の中、努は努なりに考え込んでいるのが伝わって来ていた。


 さぁ言うんだ。


 カチッ。


 「何をしやがる」

 「こんなの無駄。この子、思った以上にガード固いし、思考もしっかりしている」

 「だからってお前」

 「お前なんて言わないで。素人は黙ってて。とにかく、ここで本当を話させても、この教師にだって問題があるようだから、無理な相談。戻した時間が無駄になる。もっと有効に使いましょ。それと、あなた、知らないようだから言っとくけど、同じ時間を何度も繰り返すと、フリーズして、まったく訳の分からない時間へと飛ばされてしまいかねないから、お気をつけあそばせ」

 

 なんて生意気な。

 尻尾を立て、得意げにするリサを俺はきつい目つきで睨む。


 「永田。いい加減にしなさい」

 努は何も言わず、担任を睨む。


 俺はそれを見て、やるじゃんと口笛を吹いて称える。


 「何だ? その目は……言いたい事があるなら、はっきりと言いなさい」

 

 ドアがノックされ、オロオロと母親の登場に、担任の口調と態度が変わる。


 リサが優雅な足取りで母親の元へ近づいていったかと思うと、スッと姿を消す。


 「先生、でもうちの努が、理由もなくそんな行動するとは思いません。もっと詳しく、クラスでの様子を教えてください」

 事情を説明されるのを黙って聞いていた母親は、静かに口を開き、訊き返したのだ。

 努が、チラッと母親の顔を見る。

 母親は、挑むように担任を見ていた。


 カチカチ。


 再び姿を見せたリサが、得意げに俺を見る。

 俺は肩を竦めてみせる。

 努の歪んだ時間がわずかに動いたのは確かだった。

 

 「じゃ、また」

 そう言ってリサは姿を消す。


 よし戻るとするか。


 俺は尻尾を逆回しにし、時間を巻き戻させる。


 わずかなムカつきはあるが、コツは掴めたようだ。

 


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