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第二章 僕は透明人間#4

ぼんやりと天井を眺めている努の顔を、俺はそろりと覗き込む。

 「おはよ。気分はどうだ?」

 「気分?」

 少し時間のひずみが出来てしまったらしく、焦点が合わない目つきで努は俺の顔を見ていた。

 「頭、まだ痛むか?」

 「頭?」

 「あっそうか。僕、頭が痛かったんだっけ……うん、大丈夫」

 と言ったものの、躰を動かす気にはなれない様子だった。

 「悪かったな。時空が少しずれちまったみたいで、俺様としたことがとんだミスしちまったぜ。本当にすまん」

 「ジクウ? ミス? 何、それ?」

 努は不思議そうに、俺を見る。

 

 「何余計なこと喋ってんのよ。さっさと済まして次へ行かないとなんだから」

 知ら猫の苛ついた声が、俺の髭を動かさせる。


 「トキ、どうかしたの?」

 その言葉に、俺はまじまじと努の顔を見てしまう。

 いったい、あの知ら猫は何者なんだ。意図も容易く、努の心に俺様を認識させやがった。

 「いや、何でもない。それより飯だ。腹がペコペコだ!」

 「うん。で、今、何時?」

 「多分、八時ぐらい」

 「ええ? 八時?」

 素っ頓狂な声を上げる努に、俺は面倒になり、さっさと俺はドアをけ出ることにした。 「学校、始まっちゃう」

 その言葉に、俺は思わず振り返る。

 「お前、何をしてんだ?」

 努が慌ててランドセルを掴み、泣きそうな顔をしていた。

 「時差ボケってやつね」

 白猫に言われ、俺は露骨に顔を顰める。

 「だから早くしてよ。あんたね、このままじゃ何年かかるか分からないわよ」

 「ああうっさいな。大体お前、誰なんだ?」

 思わず怒鳴ってしまった俺は、ハッとなり、努の顔を見る。

 キョトンとした顔をして、努は時間を止めていた。


 目の前にストンと降りてきた真っ白い猫が、呆れるように俺をじろじろと見ながら言う。

 「若葉マークの奴がいるから、時間を暴走させないように手伝ってやれって頼まれたから来てみたのはいいけど、あんたの運転、へたすぎ。予定がびっしりと詰まっていて、それどころじゃないっつうの」

 その生意気な言いっぷりに、俺はカチンとなる。

 「誰も頼んでねー」

 「よく言うわ。天の声、助けてくれって、泣きそうだったじゃない」

 痛いところを突かれ、俺はムッと黙り込む。

 「私はリサ。見るところ、あなた、相当ヤバい人生を送って来たわね」

 「お前に俺の何が分かる?」

 「分かるわよ。そのまだら模様、それって返り血を浴びたか、自分で流した血よね。て事はろくな死に方をしていないってことよね。私もそうたいした人生じゃなかったけど、ひとをやめたりとかはしてないから、こんなきれいなボディよ」

 「くだらねぇ」

 俺は鼻を鳴らしそっぽを向く。

 「とにかく、早く片付けて頂戴」

 そう言うと、白猫はあっという間に姿を消してしまう。

 真っ青な顔をした努が、慌ててカバンを背負い出すのを見やりながら、俺はやれやれと首を振る。

 「ばーか。寝ぼけてんじゃねぇよ! 夜の八時だよ!」

 「ええええ? だって、さっき。おはようって…」

 「分かってねぇなぁ。業界では朝でも夜でも事始は、「おはよう」って、言うのが礼儀なんだよ!」

 「夜でも?」

 「当然!」

 俺はそう言うと、前足を使ってドアを開ける。

 「業界って?」

 後を追いながら訊く努を、俺は無視をした。

 「だから、業界って何?」

 

 俺はニャオンと短く鳴いてキッチンへ入って行き、努はドアノブを掴んだままじっと中の様子を伺う。

 疑いの眼で見ている努に、少し苛立ちを覚えた俺は目を強く瞑る。

 

 面倒なことは排除あるのみ。


 俺はチラッと顔を上げ、努の様子をうかがう。


 恐る恐るドアを開け、努はキッチンへと入って来た。


 よしそのままそのまま。


 俺は慎重に尻尾を左右に振り、邪魔な思念を取り払う。

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