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バカが裸足で走り出す

作者: 結雨空


「ねぇ、幸せ?」


無表情な顔で彼女はそう言った。


僕は、僕の左腕を枕代わりにしていた彼女を引き寄せ、強く、強く、抱きしめた。ただ抱きしめた。


そして、僕は無表情で言う。


「うん」


また、嘘をついた。





何度、肌を寄せ合わせたことだろう。


何度、肌を寄せ合わせたことだろう。



最初は、彼女の肌に触れているだけで、彼女の髪に触れているだけで、彼女の小指に触れているだけで。



君のことを恋人だと。

愛している、愛されている、と感じたけれど。再認識できたけれど。



いつしか、それは。

いつしか、その行為は、習慣となっていることに気づく、僕がいた。



それが怖くて。

怖くてたまらなくて。



僕は今まで以上に、これまで以上に、彼女を、君のことを必要とした。



毎日、毎日、彼女に触れた。彼女の肌に触れ続けた。



でも。



でも。



残ったのは、愛ではなく、君の泣き声だった。



彼女は、

「もういいから、もう頑張らなくていいから」

そう言って、抱きしめていた僕の両手を振り払った。



その振り払った彼女の手は、僕が握っていたその手は、冷たくて、雨のように冷たくて。




そのまま、彼女は僕を置いて、この部屋に僕を置いて、行ってしまった。出て行ってしまった。



彼女の服、本、CD、匂い。

今まであったものが、今までそこにあることが普通、当たり前だったものが消えていく。



唯一、残っているものを挙げるとするならば、彼女が書いた、君が最後に書いた、最初で最後の手紙。



彼女が出て行ったあの日から、2日たった今でも開けられない、その便箋。



持ちすぎたせいか、持ち続けていたせいか、左端が汗で少し濡れた、その便箋。



勝手だけれども。


とても、身勝手だけれども。



君の気持ちが分かってしまうのが、怖くて。


君の気持ちを知ってしまうのが、ただ怖くて。



ただ持ち続けることしかできない、その便箋。




僕は今を見ることができず、

現実を見ることができず、


寂しさを、虚しさを紛らすため、机の上のアルバムに手が伸びる。



その時、見えた。

ブレスレット。君がいつも付けていた、そのブレスレットが置かれていた、置き忘れていた、机の上に。



僕は、手に持っていた、持ち続けていた、便箋を破り捨て、そのブレスレットをかわりに握りしめ、外へ出た。



2日前の君を追いかけて。



ただ、走る。


この、雨に濡らされた、アスファルトを。冷たいアスファルトを。


裸足で走る。



まだ、分からない。


僕が、今も君のことを好きでいれているか。


僕が、今も君のことを愛しているか。




でも。




僕はただ。



ただ君を好きでい続けたい。



ただ君を愛し続けていたい。



これからも。これから、ずっと永遠に。




「バカだな」

僕は、裸足の足を見て、そう呟いた。


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