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夢を見ていたの



「霧の中の食べ物は食べてはいけないわ。戻れなくなってしまう」



 姉は常に霧を見ていた。





 どんなに明日が怖くても、必ず今日は昨日になるものである。

 結局、昨日は一睡もできなかった。寝ればまた、あのおかしな夢を見てしまいそうで横にすらなれなかったのだ。おかけで近日提出しなければならない課題は全て終わらすことができたのだが。


 剣稲荷神社の鳥居を見上げて私は思う。

 昨日見た夢のようなものはいったい何だったのか。

 昨日会ったばかりの人物が出てきたり、記憶から薄れていた姉が出てきたり、変なことばかりだ。私が姉について意識しすぎているだけなのだろうか。思えば姉を捜そうとしはじめてから全てがおかしくなった気がする。疲れているだけなのだろうか、それとも……。


 今日は神社に行くのをやめよう。

 今日も霧をまとう神社は昨日のことを思い出してしまう。階段下からこうして見ているだけでは何も始まらないとはわかっているけれど、行くのは少し怖い。あれが正夢になったら、今度は助かるのだろうか。私の背中を押したあの人は、いったい誰だったのだろうか。


「今日は、神社に行かないんだな」


 学校へ行こうと足を動かしたところで、誰かの声が聞こえた。

 いつ、来たのだろう。神社へ行く階段へ腰をかけた黒髪の女性は、昨日と同じようにその鋭い眼光を私に向けている。


「あなたは、昨日の」

「そうだ。昨日ぶりだな。君が言っていた例の行方不明事件、気になってな。調べたんだ」


 昨日の女性ーーコウは続ける。


「忠告しよう。君はこの事件に関わらないほうが良い」

「どういう、意味ですか」

「ここ十年、あの女子高生が行方不明になってから霧は出たかな」


 霧……。たしかに姉が行方不明になってから霧なんて出たことなかった。夏でさえ霧が出ることなんてなかった。


 では、姉が行方不明になる前は?


 姉が十七になる直前、私が七歳になる直前、数週間ほど毎日霧が出ていたような気がする。姉が行方不明になってから、霧が出ていた記憶はない。


「おかしいと思わないのか。女子高生が行方不明になった途端、ぱったりと霧が出なくなったことを不思議に思わないのか。十年もたって、急に霧が出始めたことに、疑問は」


 おかしい。確かにおかしい気がする。だってこんな霧の出方は不自然だ。偶然が積み重なったとして、頻繁に出ていた霧がぱったりと出なくなるものなのだろうか。


「狐の嫁入りは本当にあった。だが、狐の嫁入りは失敗した。狐の嫁が何者かによって隠された」

「狐の嫁入り……」

「君、行方不明になった女子高生と関わりがあるんだろう。狐の嫁入りに巻き込まれたくないならおとなしくしていた方が良い」


 話しが非現実的すぎる。狐の嫁入りは本当にあったの? 姉は巻き込まれたの? ただの行方不明事件じゃあないの? それとも誰かをかばったの?


「まあ、行方不明の女子高生、名は水沢かおり(・・・)だったか。残念だが、生存は絶望的だろう」


 なんだか不自然だ。コウって人も、夢で見た剣って人も。胸に何か引っかかるような、どうしてもこの人を信用しきることができない。


「……一つ、聞きたいことがあります」

「答えられるものなら答えよう」

「行方不明の女子高生について、どこで知ったんですか」

「普通にニュースで見たさ。連日報道されていたろう」

「ならおかしいですよ。あなた、名前間違えてるじゃあないですか」



 冷や汗が止まらない。背筋に伝う冷たい汗が、これからとんでもないことがおきる前兆のような気がする。



「姉の、あの女子高生の名前は柚香(・・)ですよ」



 灼熱の空気が辺りを支配した。

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