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「誰に言われても、霧の中にある鳥居をくぐってはいけないよ」



 昔、そう言った姉はまだ見つからない





「ただいま」


 実の姉が行方不明になってから十年の月日がたった。当時七歳だった私も当時の姉と同い年になってしまったようだ。


「おかえりなさい、かおり。ご飯、できてるわよ」

「うん。すぐに着替えてくるね」


 だいぶ横に幅が広かった母もこの十年ですっかり平均的な体型になって、顔にはいつも憂いが浮かんでいる。姉がいない食卓も、両親の憂いた顔も、見慣れるのに十年という歳月は十分な長さだった。

 記憶に彼方にあるはずのふっくらした母も優しい姉も今ではあまり思い出せない。私にとってはそれぐらい長い時間なのだ。



 姉はまだ帰らない。

 姉はまだ見つからない。


「母さん、今日のご飯は何」

「今日は唐揚げとシーザーサラダよ」


 二つとも姉の好物だ。いなくなる日の夕食のメニュー。

 ここ十年、年に一度必ずこのメニュー。


 そうか、今日は姉が行方不明になった日なのか。


「父さんは?」

「部屋よ。ちょうどかおりが帰ってくる直前に帰ってきたのよ」

「そっか。じゃあまだ着替えてるのね」



『誰に言われても、霧の中にある鳥居をくぐってはいけないよ』


 姉との最後の会話。姉が言ったその言葉。これだけはなぜだか色あせずにずっと頭の片隅にそにまま残ってる。

 姉がどんな喋り方をしていたのかどんな声だったのか、もう思い出せないけど。でも、これだけは声とともにずっと忘れられない。


「あのね、母さんたち決めたことがあるの」


 過去に想いを馳せていると母がとても言いにくそうに話しはじめた。


「もうね、柚香のこと、覚悟を決めなくちゃいけないと思って」

「ーー失踪、届け」

「あと一年。今年から一年以内に見つからなかったら出そうと思うわ」

「ーーうん」

「母さんも、辛いわ」


 わかってる。だって誰よりも姉ーー柚香姉さんの帰りを待っているのは母さんなんだから。


 母さんはずっと攻めてる。あの日、喧嘩なんかしなければって。




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