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ビーストバインドトリニティ 鋼鉄の栄光  作者: ピーター
はじめての特別課外授業
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第3話 はじめての特別課外授業2

 胡桃は校門で人を待っていた。学園での生活もはや一週間となり、朝ごはん、と呟くだけで好みと栄養バランスを考慮した朝食が出てくる、という無駄にオートメーション化された着実にダメな人間になりそうな寮での生活にも慣れてきた。いまだにばかみたいに分厚い説明書とともにもらったスマートフォン型の学園専用デバイス―――確かプロメテウスⅢという名前だったか―――の使い方には慣れないが。

 この学園での生活は慣れないことばかりだ。

 ここは確かに”異界ドミニオン”だ。地球ドミニオンとは別の法則、別の常識が働いている。だが、生徒たちはまるでその自覚はない。おそらくそれさえもこのドミニオンの世界律なのだろう。

 最も大きいのは、この学園の生徒、おそらく教師もそうだが、全員が魔物の存在を知り、そして自らも魔物であるということだ。そしてそのうえでそれがひどく歪んだ認識に基づいている。彼らは魔物をごく当然のように2つに大別している。すなわち退治されるべき”怪物ミステリアス”とそれらを退治する自分たち”超人スペリオル”に、だ。

 ”超人”である彼らは少なくとも学園内では魔物であることを隠そうとしない。むしろ、”怪物”を倒すためのその力を誇示している。おそらく、力が必要であれば外でも使うことにためらいはないだろう。

 学園内には序列と呼ばれる物が存在し、序列が上がれば上がるほど良い生活ができるのもその一つだろう。特に7位以上は8位までとは隔絶した実力とそして学園への貢献度から、”選ばれし七人グロリアスセブン”と呼ばれ、学園の運営にさえ口を挟める特権階級ともいうべき権勢を誇っているという。

 交換留学生という名目でこの学園に組み込まれた胡桃も、1042位にランキングされている。高いのか低いのかよくわからないのだが、寮での生活はたいして悪くない。

 まぁ序列を決めるとかいう試験もまじめに受けはしたものの、そもそも胡桃自身は”ランチャー”という巨大な物語に巻き込まれた通りすがりの哀れなモブである。魔物へと変質してしまったこの体はさすがにただの人間に殺されるような無様はないだろうが、それだけである。死ににくいだけの女子高生でしかないのだ。単なる殺傷力や危険度でいえば、空手やボクシングをやってる男子の方がよっぽど危険である。

 ”ランチャー”の推測によればこの区別は魔物としての自己定義の顕在化、であるらしい。つまり自分が人間の側として生まれて今に至ると考えているのか、それとも魔物の側として生まれて今に至ると考えいているのか、この点が分水嶺になっているのだという。交換留学生に選ばれるのもおそらく学園内で”超人”にカテゴライズされる半魔かそうなる資質のあるものを選んでいるのだろう。なるほど、確かにそれならいくら金を積もうがただの金持ちでは留学できまい。

 いずれにせよ、そうやってこの学園は、魔物を分別することで自分たちの抱える魔物による魔物狩りを正当化している。かくして魔物が魔物を殺し、捕まえ、おそらくは実験台にしている。さらなる魔物を狩るために。まぁ実のところ、それ自体は池袋でさえそう珍しい話ではない、とは”ランチャー”の弁だ。

 科学で神秘を駆逐する。

 彼らはそこへ邁進することに一切の躊躇がない。それは皮肉なことに”神”でさえ討伐対象と考えている彼らの唯一無二の宗教に違いなかった。そう、彼らは純粋に科学という神を信じ、そしてそれ以外の神を殺そうとしている。かつての世界を席巻した天界ドミニオンの大侵攻とそれは何も変わらない。

 宗教が悪いわけではない。だが悪い宗教はある。それは毒気をもち、人を熱狂させる。その毒気に中てられていることに、多くの生徒が気づいていない。

 胡桃が考えていたよりも事態は深刻であるように思えた。だが、果たして胡桃に何ができるだろうか。そもそも何かすべきなのだろうか。何をすべきなのだろうか。”ランチャー”の思惑は無視して尻尾を巻いて月影高校に帰るべきなのでは?

 そんな思案をしながらプロメテウスⅢを手でもてあそんでいると後ろから足音が聞こえてきた。

「胡桃ちゃーん!!お待たせ―!!」

「ううん、。」

 クラスメイトの稲生ゆかり。彼女は月影高校から選ばれた今のところこの学園での唯一の友人で、そして胡桃の親友だった。おっとりした少女であまりものごとに動じない少女だが、どんくさそうに見えて、結構器用で料理や裁縫も得意だと聞く。基本的にがさつな胡桃よりよほど女の子らしい、と胡桃は思っている。

 最近、そのゆかりは胡桃のことをキラキラとした憧憬の目で見るようになった。”超人”試験とやらが終わって胡桃が”超人”だと分かってからずっとこの調子である。胡桃は前よりもこちらを向いているはずの彼女の心がどこか遠くに離れてしまった気がして、少し寂しかった。彼女は自分と胡桃の間に線が引いてあることに気が付いてしまったのだ。

「ねえゆかり、やっぱりあれ、受けるの?」

「受けるよー、サイボーグとかおしゃれだと思うんだよねー、でもでも超能力者ってのもいいよね、魔法少女だよ!!」

「いや、魔法じゃないし。」

 ゆかりが遅くなった理由、それが胡桃にとっては大きな気がかりであった。彼女は学園で行われている”超人”化手術の手続きをしてきたのだ。

 それは例えば全身を機械化するサイボーグ化手術や、脳の超能力野とやらを開発することで異能者や守護者使いへと変貌させる手術だ。いずれも技術的、なにより倫理的に外の世界では公には行われていないが、学園ではこれは公然と行われている。

 ”怪物”に対抗するためのもっと穏当な手段として、戦闘用のパワードスーツである機動スーツや、二足歩行する軍事用ロボのアクティブギアのライダーになるなどもあるが、実績とそして人気があるのは、ゆかりがあげた2つだ。

 魔物と対峙するのは恐ろしいことだ。スーツを着たり、ギアに乗っても体がただの人間のままでいることに耐え切れないものが多い。だから”怪物”と戦える装備より、”怪物”と戦える肉体の方が人気があるのだろう。

 ”超人”化手術に費用は掛からない。定期的なレポート提出と手術時にデータを取られる代わりに学園側が無償で行ってくれる。失敗した例は少なく、失敗しても”超人”になれないだけで、リスクはない、というのが学園側の発表である。

 ゆかりが胡桃との間の線に気づいたことより、もっと気がかりなこと、それが彼女がその線を越えようとしている、ということだった。

 胡桃としては、手術などを受けずに平穏無事な生活に帰ってほしいし、何度かやめるように言ったのだが、ゆかりはまともに取り合ってくれなかった。ゆかりとの友情をとるべきか、それとも、自身のエゴに従うべきか、胡桃にしては珍しく自縄自縛に陥っていた。

「そういえば胡桃ちゃん!!知ってる!?」

「何を?」

「今日、来るんだよー。クロンダイク公国から、お姫様とー、国王様が―、あれ……国王じゃなかった気もする。」

「あー、そういえば、そんな話もあったわね。」

「学園の方にも来るかなー、来るよねー。」

「まぁそのうち顔を出すぐらいはするじゃないかしら、世界的に話題な場所ではあるし。」

 クロンダイク公国はヨーロッパの小国で、日本と親しい国であると、テレビでやっていたのを思い出した。特産品やらなんやらの話も出ていたが、あまり詳しくは覚えていない。そのニュースを見たとき、”ランチャー”は何かを知っているようなそぶりを見せたが、喋る気がないようなので辞めておいた。そも歴史や地理は苦手であるし、”ランチャー”はもったいぶる割に話し始めるとそれはもう長いのである。

 そんな胡桃でも例外的に覚えていることがあった。

 それが、クロンダイクのお姫様、公国であるから公女と呼ぶべきか。彼女がドレス姿で大衆に手を振る姿だけは目に焼き付いていた。嫋やかさと華やかさを併せ持った姿は女の子なら誰もがあこがれるであろうプリンセスを体現していた。

「それにしても……あのお姫さま、凄かったねー。」

「はぁ、私もプリンセスに生まれたかったわ……。」

「胡桃には似合わないよー。」

 目をぱちくりして、心底意外そうにゆかりは言った。

「なんだとー!!」

 それを聞いて胡桃がじゃれつくようにゆかりに組み付いた。

「やめてよー、ほらー、なんかライダースーツとかきてバイク乗ってなんか悪そうな人を束ねてブイブイ言わせてる方が似合ってるよー!!」

「なにその妙に具体的なイメージ!!」

 バイクの男たちの先頭に立つ自分は少し想像してみたが、それはたぶん”ランチャー”であって自分ではない気がした。奴ならその気になれば関東一円の暴走族を束ねるぐらいのことはやってのけるだろう。やる気があれば、だが。

 そろそろ寮へ帰ろうかというとき不意にプロメテウスⅢに着信音がした。確認すると、学園が用意した連絡用アプリに着信があるようだった。

「ちょっと待って……なに、これ。」

『生徒会室に来てください。生徒会長がお待ちです。』

 無機質なメッセージに胡桃は嫌な予感しかしなかった

ビーストアナライズ№003

ジークリンデ・ゴッドバルト

「ふっ、この私に挑もうなどとは百年早いですわね!」

異能者

絆:ウラジミール(好敵手)

エゴ:”超人”の誇り


 プロメテウス国際学園3年生。序列3位の電撃使い。”選ばれし七人”の中でも能力の特異性ではなく、ただその圧倒的な出力と殲滅力によってその地位を確立し、学園のシミュレートでは中規模程度のドミニオンであれば中の構成員をすべてなぎ払ったうえでドミネーターを倒して制圧することも可能とされている。

 『百式兵法』との序列入れ替え戦にて電磁石の原理を応用し、磁力を生み出すこともできるようになった。

 自信家であるが、それゆえに後輩などの面倒見は良い。また、序列一位『完全世界』ウラジミールを目の仇にしており、勝負を挑んでは返り討ちにあうのは学校の恒例行事である。

 学園の在り方に疑問を持ちつつあり、学園内では珍しいまっとうな半魔である。


所持アーツ:《異能:オメガエフェクト》《こんな使い方もある》《規格外存在》《接近困難》《飛行能力》《対地攻撃》5etc

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