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ビーストバインドトリニティ 鋼鉄の栄光  作者: ピーター
はじめての特別課外授業
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第2話 はじめての特別課外授業1

 無遠慮で手荒いノックに、プロメテウス国際学園の生徒会長、春夏秋冬=クララは頓着せずに、生徒会室への入室を許可した。だれが入ってくるかはすでに知っている。自分が呼びつけたからだ。自慢の長い黒髪をかき上げて、笑顔を浮かべる。これからまた、彼に無理を言うのかと考えると個人的には気分が沈むが、それと学園における彼の役目の必要性は別だ。

 ドアから現れたのは少年は歴戦の戦士を思わせる隙のなさを見せている。彼、ロビン=ユンデはクララの元で1年を過ごした。その成果がこれである。実のところ、クララからすれば珍しいことではない。彼女の懐刀となった生徒の多くは1年もたてば、だいたいこんな感じに仕上がる。なんとも申し訳ない気持ちだ。クララからすれば彼もまた青春を謳歌するべき愛すべき生徒の一人だというのに。

「見なくてもよかったんですかね会長。序列上位者の序列入れ替え戦は祭りだー!!とか以前、言ってませんでしたっけ?」

「あれは、『王者の杖(サンダーロッド)』に『百式兵法チェックメイトプラン』が挑んだのがいいんじゃないか。彼のプランは確かに序列三位を脅かすに足るものだったよ。」

「つってもただの人海戦術でしたけどね。何人参加したんでしたっけ。」

「100人ほどかな。全員が2組が開発した超耐電スーツを着込んでいたのは圧巻だったね。あれのおかげで、あのあと序列入れ替え戦のルールをいろいろと変えなくちゃならなくて大変だったよ。まぁ『王者の杖』は、それでも勝ったのは流石だったがね。まぁお互いに良い経験になったことだろうさ。」

「そんなお強い『王者の杖』さんが『完全世界』に挑んだのは些事ですかい?」

「データは一応確認しているよ、ロビン君。だが、いかんせん『完全世界ペルフェクティオ』と『王者の杖』の小競り合いでは勝敗は見るまでもないさ。賭けにもならない。まぁ料理対決とかファッション対決とかなら何を排してでも見に行ったがね。」

「手厳しいことで。」

「戦闘形式での入れ替え戦で『完全世界』と賭けになるのはあの謎の怪人、序列二位『無銘の英雄(ミスター・アンノウン)』ぐらいだろうさ。それ以外の人物は触ることさえ不可能だ。タネはわからんが、結論は出ている。というか『無銘の英雄』さえ彼女に触れることができる、というのは噂でしかない。」

「それと”欄外個体アウターナンバー”ぐらいですかね。」

 ロビンが皮肉げに笑ってクララを見る。

「悪い冗談だなロビン君。私は失敗作の欠陥品、正真正銘ただの人間なんだよ。かるーく、ひねられて終わりさ。だいたいそんなことができるなら君はお役御免だ。違うかな?」

 クララが笑って否定する。生徒はすべからく学園で言う”超人”、すなわち人造かそれとも改造手術や調整を受けた魔物だ。クララも異能の開発手術を受けたが、異能は発現しなかった。それ自体はたいして珍しいことではないが、彼女はこの学園を去らなかった。序列圏外の無能力者にかかわらず、学園を引っ張る彼女は、生徒たちから見れば、確かにある種の超人ではあろう。”欄外個体”なる大げさなあだ名もまたクララを生徒たちがどう見ているかをよく表していた。

「そうですかねぇ、”欄外個体”ならなんとかしちまうような気がしますが。多分みんな会長に賭けますよ。」

「それじゃ、別の意味で、賭けにならんだろう。」

「で、今度は何ですか?」

 雑談を切り上げて、ロビンの顔が引き締まる。そもそも1年間逃げも、死にもしなかっただけでも及第点をくれてやるべきなのだ。それを思えば、学生に言う言葉ではないが、彼はよい兵士になってくれた。

「ふふっ、簡単な仕事だよ。」

「まぁた、ろくでもなさそうなんですが。」

「『完全世界』と『王者の杖』から素敵な陳情が来ていていね。まぁ彼らは”選ばれし七人(グロリアスセブン)”だからな、無碍にはできない。」

 学園における序列は、別段強さではない。プロメテウス国際学園は研究都市だ。序列は研究成果たる生徒の希少性やそれとは逆に再現性や量産性、他分野への応用性などが加味されて決定されるのだ。序列入れ替え戦も名前とは裏腹に、序列を決定するための学園公式のただの実験データ取得の場でしかない。勝てば序列が上がるとは限らないし、有用性が見いだされれば負けようが序列は上がる。

 端的に言えば序列はこの学園における生徒の価値である。つまり序列が上がればよい生活ができるのだ。これが極まったのが『選ばれし七人』、序列上位7名の特別枠だ。彼らは将来はプロメテウス国際学園を率いることを嘱望され、学園運営にさえ口をはさむことが許されたエリートたちだ。

 生徒会は学園生活において、かなり強い自治権を持っているが、それでも彼らを無視することはできないのである。それが、クララの悩みの種でもあったが、クララはそれはそれで楽しんではいた。生徒会長がもしもただの孤独な独裁者であるなら、とっくにこの席を誰かに譲っている。

「拾った人間と飼ってるペットに学生証を発行しろと来たものだ」

「んなことできるんですかい?」

「まぁ実験体せいとが一人二人増えるのは、学園側は黙認するだろうね。それに『完全世界』からの報告が本当であれば、学園が逃すわけがない。」

「なんかしたんですか?」

「”触った”のさ彼女に、彼女の許可なく。これの意味するところは分かるだろう?」

「まじっすか?」

 序列一位『完全世界』。中等部からすでに彼女はその地位にいた。噂では彼女のために学園がある、などという話まである。だれも触ることすらできない。まさしく無敵。それこそがおそらくは学園が彼女を序列一位に据える理由だ。彼女の絶対性はある種、今の学園の象徴でもある。これを揺るがすような存在がいるならば、学園は解剖してでもその秘密を知りたがるだろうし、彼女を脅かすような存在を他の組織にとられることは絶対に避けたいと考えるだろう。

「とはいえ、だ。学生証を無料ただでくれてやるのも気に食わない。というわけで君に彼らの入学試験官をやってもらいたい。なに、適当なドミネーターでも一匹倒すか、”羽根”の一つでも手に入れてくればいいだろうさ。ターゲットは情報委員に探させよう。」

「そいつが簡単な仕事?」

 クララはさらりと言ってのけたが、どちらも半端な難易度のミッションではない。ドミネーター、すなわち一つの世界の支配者たる彼らはただの魔物とは一線を画す存在だ。弱くても魔界の魔王や天界の大天使と同程度、上を見たらきりがない。そして、”羽根”は”羽根”で喉から手が出るほど欲しがってる連中が山ほどいる案件だ。下手をすれば、ペルソナネットワークをはじめとした大手を相手に立ち回ることになる。この入学試験内容にはどうにも『選ばれし七人』へのクララの私怨がかなり混じっているのではないかとロビンには思えた。

「まぁダメそうなら君がストップをかければいい。試験はそれで終了でいい。……君の手を借りてなお、その程度がクリアできないようなら、この学園では、卒業を前に遠からず死ぬ。その前に学園から追い出してあげるのが優しさってものだろう。」

「そりゃ、俺を買いかぶりすぎじゃないですかね。」

「君を信じる私を疑うのかね?」

 クララがいたずらっぽく言う。ロビンの性格を知ったうえでの言葉だ。そもそも口では嫌がってるようなそぶりを見せているが、すでにどうやったらいいかの算段を考えている。そういう男だ。

「うわー、やな言い方しますね。へいへい、わかりましたよ。謹んで試験官とやらをさせてもらいますよ」

「さて、では引き受けてくれる君にボーナスを上げよう。」

「いらないっす。」

 即答であった。

「実は、もう一人、その試験に連れて行ってもらいたい生徒がいるんだ。」





 バタンとドアが乱暴に開く。だ部屋の中にいたジャン・ジャック・ジェローム三世はくつろいだまま特に反応はしなかった。強いて言えば自分のだらしなくはだけたTシャツに目をやって、また部屋の主に文句を言われるだろうなぁ、とちょっと思っただけだった。

「J3!!J3!!いまして!?」

 部屋の主、ジークリンデの声が彼女が勝手につけたジャンのあだ名を呼ぶ。

「なんだね、騒々しい。私は最近発売したビーストハンターで忙しいのだがね。」

 ジャンがやれやれと言った感じで、首を横に振る。その手には、携帯ゲーム機がある。ジークリンデが買い与えたものだ。いや、そもそもジャンの持ち物で、服に至るまで自分のものなど存在しない。なにせ今の彼は、ジークリンデのペットなのだ。

 ジャンにはこの学園で人権は存在しない。ジークリンデという保護者がいてようやくその存在を許されている。それはジャンが学園の視点からすれば純粋な”怪物”であり本来ならば討伐対象の一体に過ぎないからだ。

「また、あなたはそうやってダラダラと。シャンとしなさい、シャンと。」

 ジャンは服装を正されながらもどうせ、また『完全世界』に負けたのだろうと踏んでいた。この学園での生活はそう長くはないがそれでもこの学園で序列三位『王者の杖』に土をつけ、あの自信に満ちた顔を悔しそうに歪ませることができるのは彼女ぐらいしか存在しないのは理解している。『百式兵法』に挑まれ窮地に陥ったあの時でさえ、満身創痍ながら誇らしげに帰ってきたのだ。

「私は君のペットだからね。愛玩動物ってのはそういうもんだろう?それとも顔でもなめた方がいいかな?まぁ僕としては君の血のほうがいいんだがね。」

 ジャンがジークリンデに顔を寄せる。何も知らないものが見れば、美男美女のカップルの愛の語らいにも見えるだろう。

「やってごらんになれば?消し炭にして差し上げますわ。」

 ジークリンデはにべもなく、ジャンの手を振り払ってソファーに座った。実際、彼女ならジャンを片手間にローストできるだろう。だがジークリンデのペットに甘んじているのはそれだけではない。討伐対象である自分を生かして、手元に置いていること自体にも興味があったし、欲しいものはおおむねジークリンデは用意してくれるし、不自由はしていない。ジークリンデがいないと部屋から出るのさえままならないのは若干の不自由ではあったが、そもそもジークリンデの10倍以上を生きたジャンにとっては一日中部屋の中に居るのも大した苦痛ではない。総じて、ペットというのがふさわしい楽な生活である、というのがジャンの感想だ。

「あなたを生徒にするように生徒会に掛け合っておきましたわ。」

「ジーザス、そいつが意味してることは君にだって、いや君にはわかるはずじゃないか?」

「この学園を変えるためです。」

 ジークリンデが強い意志のこもった眼でジャンを見る。己を短い命としってなおそれを燃やし尽くそうとする使命感。ああ、自分もかつてはあんな目をすることがあったのだろうか。この体になってからずいぶん遠くに置いてきてしまった気がする。

「変えるだって?」

「……わたくしは、多くの”怪物”を殺しましたわ。学園の正義を信じてきました。ですが、彼らは悪だったのか、我々は共存できるのではないか、と思うのです。」

 多くの生徒や教師が彼女は自分にも他人にも厳しい豪胆な自信家でと考えている。だが、ジャンから見れば彼女は優しく脆く、そしてそれゆえに美しい。これは生粋の魔物にはない人間の美しさだ、とジャンは考えている。数百年を生きたジャンを圧倒する力を持ちながら、彼女の心はどこまでも人間だ。

 彼女は自分たちを”怪物”を倒す”超人”だと勘違いしたこの学園の多くの生徒たちとは違う。彼らは気づいていない。おのれを人間だと信じている彼らこそ竜の言葉を借りるなら真に”魔物”なのだ。人間社会から隔離されたドミニオンで、自分たちだけで閉じた絆を紡ぐ。魔界の悪魔や天界の天使どもとそれの何が違うというのか。

「年長者として忠告しておくよ。」

 ジャンはジークリンデを見据える。そう、彼女はじつに”まとも”な”半魔”だ。だからこそ、美しい。ゆえにペットとしてではなく、先達として言葉と見識を彼女に与えねばならない。それが、半魔であるジャン=ジャック=ジェローム3世の義務であろう。

「良い魔物は確かにいる。……だが、悪い魔物はその100倍は居るのさ、お嬢さん(マドモアゼル)。」


ビーストアナライズ№002

ロビン・ユンデ

「やれやれ、どうしたもんかねぇ」

機動警察

絆:春夏秋冬 クララ(忠誠)

エゴ:皮肉を言いたい


 プロメテウス国際学園2年生。皮肉屋だが世話焼きの苦労人。

 学園謹製の機動スーツとその周辺装備を駆使して魔物と戦う。スーツ以外にも多くの装備を収納した特製のトランクを常に持ち歩いている。

 会長直属のエージェントとして1年間を生き延びた強者で価値観や精神面では一般生徒とは一線を画したリアリスト。

 孤児だったが、生徒会長のクララに拾われて学園に入学した。このため、クララへの恩義を強く感じている。



所持アーツ:《モビルポリス》《緊急出動》《始末書》《制圧術》《法の盾》《機動鎮圧》《フォローアシスト》etc

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