第21話 黒き死の行軍、赤き贖罪の夜4
「報告は以上であります。」
「あー、ご苦労さん。」
見慣れた顔が慇懃無礼ともとれるくそ真面目な報告をするのを、ロビンが投げやりに返した。
いつもの生徒会室にはクララは居ない。彼女のスケジュールはある程度はロビンも把握しているが、時々思い付きで軌道修正するので、今、どこに居るのか、という問いには答えられない。だが、必要なときに居なかったことはないので、誰もが彼女を信頼し、そして諦観している。
その彼女の代わりに、2人を見守っているやせぎすの男、いかにも研究者でござい、という感じの何かの拍子で折れそうな細さの男がいた。
報告をしているのは”吟ずる人形”の1体だ。自分の番号も言っていた気がするが、ロビンに見分けはつかないし、つく必要もないと考えている。一見すれば特徴のない顔立ちの、ごく普通の生徒である。両耳にあたる位置にデータ受信用の高感度アンテナがあることと以外は。
学園序列4位”吟ずる人形”。”選ばれし7人”でありながら、目の前の彼は、数名程度ならロビンでも倒せる程度の強さだ。そう、”数名”程度なら。つまり、”吟ずる人形”は一人ではない。。同じ実験を受けた生徒、ではなく、文字通り”吟ずる人形”という魔物が学園中に数えきれないほどに存在している。そのすべてが無線ネットワークでフルタイムに意識を共有した群体にして軍隊の魔物。それが、彼らだ。学園の本土防衛戦力にして治安維持機構、つまり風紀委員の9割が彼らである。この学園に居れば、どこででも、彼らを見かけることができるだろう。彼らはベースとなったという人物をクローン培養し、用途によってチューニングされた造られた怪物である。物理的な性能面ではある程度の個人差はあるが、言ったことが全員に伝わる以上、誰と何を話そうがあまり差はない、とロビンは考えることにしている。というかあまり深く考えると、同じ顔が軍隊規模で何人もいるという現実に耐えられない。”彼ら”もしくは”彼”を相手にするのは、学園が防衛戦力、そして治安維持に常備している戦力の9割を相手にするに等しい。
「しかし、侵入者が一晩に、別々のところから3名、ね。それも、全員まんまと逃げおおせた、と」
「はっ、申し訳ありません。」
「あんまり、いじめないであげてくれたまえよ。」
白衣の男が”吟ずる人形”に助け舟を出す。
「分かってますよ。フレケンシュタインの旦那。」
そういいながら、ロビンが眉を顰める。その類まれなる才能から、”全能科学の”とまで呼ばれる天才。学園の研究開発の基礎のほぼすべてが彼の発明だ。そして、この学園の学園長であり、実質の№2だ。(ちなみに実質の学園の支配者は理事長であるウィリアム・クラックスになる。)ロビンとて、彼が偉大で代替の効かない科学者である点は認めるが、それでも、この男は嫌いだ。
「そう、それならいいんだ。なにせ、彼らの代わりはいまだ誰も思いついてくれないからね。」
彼は偉大な科学者であるが、最大にして致命的な欠点がある。この男には想像力というのが欠如している。つまり、彼は自分ではなにも思いつかない。誰かが思いついた机上の空論を形にすることにかけては全能科学の名の通りの天才であるが、彼がそのベースになる、その何かを思いつくことはない。もしかすると、彼が適当に子供の思い付きを聞いているほうが学園の研究開発は進んだかもしれない。
そして、そのアイデアに対して一切の善悪を考慮しない。この男は、どんな道を外れた実験でも始めるし、始めたら誰かがブレーキをかけなければ止まらない。それはまさしく、科学の権化のような存在とも言えた。良いも悪いも使う物次第というわけだ。
”吟ずる人形”を庇ったように見えるのも、報告からわかる情報から彼らに対処できる範囲を超えた相手だった、という彼の合理的な見解が、”吟ずる人形”を責めるのは、合理的な判断ではない、とみなし、それを止めるにはどういった言葉いいのか、というのを合理的に判断した結果でしかない。すべては論理であり、そこに彼らが可哀想などといった感情の類は一切ない。
「しかし、ねぇ。こいつはまた」
報告書を目を落としてロビンがうなる。見ているだけで気が滅入る。先ほども言ったが、彼らをまともに相手するのは、学園の防衛戦力9割を相手取るということだ。別々のところから侵入した3名が全員、彼らから逃げおおせたのだ。そして、会長様はそのヤバイ奴をなんとかせよとの仰せだ。なにせ、そのろくでもない連中のおかげで、”吟ずる人形”は稼働可能個体数を大幅に減らし、風紀委員は機能不全に陥っているのだ。今も急ピッチで再生産と修復が進んでおり、学園の治安維持には支障はないが、同じ程度の戦力による襲撃があった場合、それも危うい可能性がある。
というわけでその対処をロビンがすることになったわけである。クララは、ロビンに期待をかけすぎてはないだろうか、と時々思う。
「まぁ大変な仕事だね。とはいえ、できないことはないんじゃないかな。彼らの狙いを突き止めるまで、だろう?」
フレケンシュタインがロビンに向かって見解を述べる。”吟ずる人形”以外の被害報告は特に上がってきていないから、連中はまだ目的を達していない、というのが、クララの読みだ。ただし、連中には最悪”選ばれし7人”を2、3人投入してでも対処する必要がある。そのためには、狙いを知っておく必要があるわけだ。一番、戦力的な融通が利く”吟ずる人形”だけでは決定力が足りない。
「さて、とりあえず、直近の特別課外授業の成果だけど、一番の大物は彼女だね。」
フレケンシュタインがバーチャルコンソールを叩いて、目の前に、ある人物の特別課外授業のホログラフを表示する。学園長である、フレケンシュタインがここにいるのは、このデータを閲覧する権限を持っているからだ。クララも当然、権限は持ち合わせているが、まぁ体よく、自分の都合で学園長を、利用した、というところだろう。立っているなら、親でも使う女である。そして、フレケンシュタインは誰かに使われることに関しては専門家である。このため、これも実はそう珍しい光景ではない。
「『駆動心音』様ですかい。」
それを見てロビンはしかめ面をする。『駆動心音』剣崎さやか。”選ばれし7人”が絡んできたとなると、かなりの大事になりうる。そして、もう一つ、ロビンは個人的に剣崎さやかが苦手だ。どうもああいう、裏表もなくぐいぐいくるタイプは不得手である。彼女が別に嫌いなわけではないが、相手をするのにどうにもエネルギーを使う。
そう、だいたい奴と同じタイプだ。そう、四六時中、飽きもせずにつきまとってくるあいつと。
とそこまで考えて、ロビンは気を取りなおした。
悩んで現実が変わるならそうするが、そうもいかない。とりあえずのところ行動あるのみである。
「じゃ、まぁこんなから適当にみつくろって話を聞いてきますわ。」
そういって、ロビンは触れ件シュタイン特別課外授業のデータをP-Phoneにインストールして二人を置いて生徒会室を後にした。
学園謹製の薄型軽量の端末がロビンにはいやに重い気がした。
ビーストアナライズ№013
『吟ずる人形』
「報告であります。」
造られた怪物/戦闘員
絆:”吟ずる人形”(自身)
エゴ:お役に立ちたい
”選ばれし7人”の一人(?)。肉体は学園が行う様々な肉体改造に適性を持った人物のクローンで、ネットワークで意識を共有する軍隊にして群体である魔物であり、状況にあったチューニングをされた個体を投入できる汎用性などからその戦術的価値は高い。個々の戦力自体も、スリーマンセルで学園の平均的な生徒をおおよそ無傷で制圧できる程度と低くはない。プロメテウス国際学園の風紀委員、のおおよ9割を占め、普段は学園の治安維持などに尽力している。生真面目で慇懃無礼な彼らは学園のどこでだって見かけることはできるだろう。
風紀委員仕様以外にも、さらに実戦的なチューニングをされた陸戦型や、飛行能力を持った空戦型など様々なバリエーションが存在する。
意識を共有しているため、個々の死については無頓着であり、必要とあれば搭載した自爆装置を使うこともいとわない。
所持アーツ:《召喚:『吟ずる人形』》《道連れ》《号令! 集団戦法》《身体改造処置》《能力移植》《偉大なる悪の組織万歳!》etc




