第後話 『——後日譚、の後日譚』
後日譚、の後日譚。
あの事件は結局あのまま幕を閉じた——少しばかり『やり返し過ぎ』を注意はされたが……あくまでこちらは、家族を襲われかけた身だ。冷静さを失っていても仕方ない、と判断された。……なにより、ドライバーの傷が自身の不慮でついたもの、とわかったのが大きいかもしれないが。
妹はとくに後遺症(精神的なものを含め)が残ることもなく、今ではまた、普通に出掛けるようになった。両親とは……まあ、それなりに上手くやっている。まだ若干、正直に物をいうのには気恥ずかしさがお互いにあったりするものの……それすらもなんだか楽しく思える。家は、本当に心を落ち着けられる場所——『家』となった。
——とはいえ、全く問題がない、というわけでもない。
と、噂をしていれば……。
俺は丁度、思考の中心にいた人物が丁度リビングに入って来たのを見て、声を掛けた。
「あ、マイ。ちょっといいか?」
「え、ひゃ、ふぁい!? な、なにアニキ!? アタシになんか文句でもあんの!?」
「いや、とりあえず落ち着け、な?」
——と、まあそんな感じだ。
妹の様子が、すごくおかしい。家族にあった溝が解決されたから、というだけでは済まない、この違和感。口が悪いのは前と変わらないのだが、角が取れているというか、勢いがないというか、あるいは寧ろ勢いがあり過ぎて空回っているというか。
さらにいえば、俺と話している途中。突然に頭を抱えて悶えながら、ぶつぶつと呪詛のように言葉を呟くようになった。……その内容がまた、なんとも言い難いもので……。
「待てアタシ、落ち着け、落ち着け! だってアニキだよ!? 兄妹だよ!? ありえなくなくなくなくなくなくなくなくない!? きっと本当の王子様は別にいるんだよ! あれは吊り橋効果でそう見えちゃっただけで……! ……? あれ? でも、なんか最近アニキ落ち着いてて大人っぽいし、すごく頼りがいがあるし、なんか包容力まで感じるし、趣味も仮面ライダー好きで合ってるし、味覚も家族だから当然似てる、今まで知らなかったけど喧嘩も強かった、最近は勉強もスゴイしてるし、身長も平均はあるし、見た目もなんか格好よくなってきてて……ん? あれ? あれれ? 王子様? 王子様なの? いや、そんな、馬鹿な……そんなわけ——」
こうなると後はもう放っておくしかなかった。実際、喋りかけると、
「黙れ王子様ッ! アタシは今すごく大事なとこなの! 集中を乱さないでッ!」
と怒鳴られる。……なんだその理不尽は。そして誰が王子様だ。
……でもまあ、問題らしい問題はそのくらいで、あとは平穏過ぎる日々——俺が望んでいた日々。だが、またもうすぐ、何かが起きる気配を俺は感じている。肌がピリピリと痺れるような感覚。リビングに掛けられたカレンダーへと視線を向ければ、残りの春休みは数える程もない。印がつけられた日を迎えれば、俺は高校二年生になる。また、その翌日には妹も同じ学校へと入学してくる——どちらも、何かが起きるにはうってつけ過ぎる日だ。
——と、思わず頬が上がりそうになっていた事に気付き、手で押さえ……いや、やっぱりやめた。
向こうにいる時にはあまりに死にものぐるいだった所為で気付かなかったが、この予感というのは、どうやら悪い事だけを示すわけではない、ように思う。雨降って地固まる、とでも言おうか。この予感に従い行動し、乗り越えた先では、いつも何かを手にしていたように思う。だからこそこうして今、俺は生き残り、帰ってくる事ができたのだと思う。まあそれでも、なにもかもがハッピーエンドとはいかないだろうが、しかし——
——面白く、なってきた。
決して破壊衝動だけの、狂気に委ねた笑みではない——未来への期待が溢れた故の、笑み。
……だが、ふと思う。
例えばの話。あの異世界に召喚された人間、その全てに本当は『勇能』が宿っており、しかし戦略兵器として用いる事のできる……あるいは、実際に計測できるものだけを『勇能者』として判別されていたのだとすれば。
——案外、この『直感』こそが俺の『勇能』、だったりしてな。
戦場の中で培ったと思っていたこれが、実は戦場の中でその使い方に慣れてきていただけだとしたら。そして、その直感を俺がこの世界に”持ち出して”しまっているのだとしたら。
「——他にも、いるかもしれねえなぁ」
俺はそう、言葉を漏らす。それは、『噂をすれば』を期待しての事なのか、あるいは……。
「アニキ、なんか言った?」
「……いーや、何にも」
その答えは、今はまだ俺にもわからない——……
これにて、後日譚(春休み編)完結!
たまには現代を舞台にした作品も悪くないですね……なにより、書きやすい(笑
一応ファンタジーのジャンルだけれど、物語の中に特殊能力を持った人間を出すかどうかはまだ未定。そのときの勢いに乗っている自分に聞いてみないとわかりませんっ。
次の投稿日は未定です。ムシャクシャした時にまた、がーっと勢いで書き上げて、ぼどんっと投下する……かもです。
感想とか、評価とか頂けると続きを投稿する可能性が上がるかも……。燃料補給は大切です(笑
それではまた、どこかで——
——と言いましたが現在、開催されているSFコンテストに向けて作品を執筆中です。それが上手く進まなくてこちらを書いてしまいました(なぜ自ら首を絞めるのか……
さらに言えば現在、ノクターンノベルの方でも『スプライト』名義にて毎日投稿を続けています(こっちもスランプ入っちゃってますが)。毎日文章を書く、という癖をつける事をなによりの目的としている作品ですので……クオリティはお察し(汗
ですが、暇な方は目を通していただけちゃったりするとありがたかったりします。もちろん、18歳以上の方に限りますが……弾薬の補充は十分かー!?(←下ネタ、失礼をば
では改めまして、また近いうち、どこかで——……