写本5
急いでいます、というメールには改めて事情を説明してお断りの連絡を書いた。
今度は、もう連絡してこないでくれと書いた。さすがにちょっと気味が悪い。
それから2日間ほどは、図書館に通って関連文献を調べることになった。
幸いにして、今回は彼女が積極的に手伝ってくれた。
「何を調べるかが明らかじゃないとお手伝いもできないから、とりあえず何を調べるか教えて」
文献調査でわかりそうなことは、冬の書に使われているシンボルについてかもしれない。そんな本が見つかればだけれど。
すると、彼女は広い図書館をするすると進んでいき、ほぼここだろうという場所まで連れてきてくれた。
図書館の紋章やシンボルについての本は棚を埋め尽くさんばかりにあり、机に持ってきたときには厳選に厳選を重ねても5冊も持ってくることになった。
「なぁ、ラエマ冬の書についてそもそも書いてある本はないの?」ページをめくる彼女の手をなんとはなしに見ながらきくと
「魔術書は歴史資料的価値がなければ、基本的には学問のための本じゃないから。
漆原先生が、キリスト教からみたペイガン、異教について調べている人じゃなければ、図書館連携の中にラエマ冬の書があるなんて誰も想像がつかない」
「多分こういった本と同じように、ラエマ冬の書は図鑑のような扱いなんじゃないかな」ときくと、彼女はこくりと頷いた。
本を調べてみると、キリスト教のシンボルとされているものは自分が想像していた十字架の形だけではなく、かなり多くのシンボルがあることがわかった。
すみれは「私も、十字架以外に魚のイクトゥスがキリストを意味する事は知っていたけど、薔薇もキリスト教の暗示するのね。そういえばキリスト教系秘密結社の名前が薔薇十字団だったっけ」
冬の書には、薔薇はいくつかのページやシンボルの一つとして出てくる。
この本には似たような紋章がたくさん出てくるけれど、もしかすると本当に有効な紋章が隠されているのかもしれない。
すみれは別の興味があるようで「いわゆる魔術書だと思われているものにここまでキリスト教のサインが繰り返し出てくるのは普通ではない気がするの。魔術とキリスト教との間のつながりがわかるかもしれない」
その日家に帰ると、家が空き巣に入られていた。