コンテスト3
女性達が舞台に上がって歌い出したのは、「ツタはよいもの嬉しいもの」だった。
ツタは良いもの嬉しいもの
ツタはとっても綺麗なもの
ツタは綺麗で鮮やかな緑
冬の日も夏の日も
そして薬にもなる
誰がこんなに昔から価値のあることを知っているだろう、ツタよ
この素晴らしくて強壮で
そして森の中で素晴らしい木
こちらはすみれの言ったとおり、韻は踏んでいるのだけれども口語で歌っていた。
女性達はおばあさんも若い人も元気にこの歌を歌っていて、拍手も大きかった。
男性側から、「ダメ、ツタはダメ」が返しの歌として歌われた。
これを返せる内容の歌として、「ツタは主の木(ヴェ二・コロナベリス)」が歌われるはずだ。
まだ舞台に上がっていないすみれに声をかけると
「あの歌、私しか歌えないの。でも自信がなくて」
理由をきくと予想外の返事が返ってきた。
「女性達はみんな...文字が読めないの」
「どういうこと?」
「教育の問題だと思う...口語を伝えることはできても、歌を練習する事はできても、文字を使って伝えたりできる人はいないの。教会にきて聖書を持ってきていても、そもそも聖書が読めてないの。とってもいい人たちなんだけど。だから、ツタは主の木は、練習したんだけれども結局うまく練習できなかったの」
すみれは大きなため息をついた。
すみれは結局1人で舞台に登っていった。男たちが、一人で舞台に上ったすみれに目を向ける。彼女は目を閉じて深呼吸をして、小さな声で歌い出した。