冬の夢4
アシュリーが示したものに、すばやく
すみれが日本語をつけていく。
彼女の古英語の造詣には舌を巻く。
Ivy chefe of treis it is.
ツタは木を司るもの
Veni coronaberis.
「ヴェニ コロナベリス」
The most worthie she is in towne ;
街の中で最も価値ある彼女
He that seith other, do amisse ;
彼が他の人へいった言葉、それは間違い
And worthy to bere the crowne.
そして冠を得るのにふさわしい
Veni coronaberis.
「ヴェニ コロナベリス」
Ivy is soft and meke of speche ;
ツタはしなやかで流れるように話す
Ageinst all bale she is blisse.
何に隠されていても彼女は輝く
Well is he that may her reche.
彼女の豊かさを彼もまた喜ぶのだ
Veni coronaberis.
「ヴェニ コロナベリス」
Ivy is green, with coloure bright,
ツタは緑、輝く色の緑
Of all treis best she is ;
全ての木の中で最高の木
And that I preve well now be right.
それを今よく示すことができた私は正しい
Veni coronaberis.
「ヴェニ コロナベリス」
Ivy bereth beris black.
ツタは黒い実をつける
God graunt us all his blisse,
神の恵みは全て私達に与えられた
For there shall we nothing lack !
私たちは全きもの!
Veni coronaberis.
「ヴェニ コロナベリス」
「こんなところね。キリスト教の神のことがかいてあるあたり、教会ができてもこのコンテストは残っていたんだということがよくわかるわ」
「そう。どうもHolly and Ivyのせいですっかり男性に負けたみたいになってしまったケド、最後の年ぐらいがんばりたいと思う。それと、すみれ、このヴェニ コロナベリスとはどういう意味?呪文みたいに何度も出てくる」
「Veni Colonaberis...旧約聖書の、レバノンへ行って冠をいただくという時の言葉なの。Crownをお互いに奪い合うときに聖書のこの言葉をもってくるなんて、最高!
VeniはComeとかGoの意味、Coronaberisは冠をいただくことよ。この歌は完璧なんだわ。男性が何をいってきても最初の部分で「それは間違い」といってのけるのよ!
この歌は、それまで省みられることがなかった女性のすばらしさと、女性のキリスト教へ理解を歌っているって思える。女性にもこんな歌が作れるんだって。
この歌を作ったのがラエマなんじゃないかってさえ思える」
「わかります。キリスト教の中で生きていくこと、男性だけでなく女性も等しく神の愛を受けていると一生懸命歌う気持ちが」
「それすごいなぁ。すみれの夢が続くのなら、僕もみてみたい。
でも、僕にはラエマがもしこの歌を歌えていたなら、この本にパリンプセストとして書く必要があったのかな」
そして全てが整って、夜がやってきた。すみれの夢の続きはどうなるだろうか。
僕とアシュリーも、今度は夢を見られるだろうか。