アシュリー2
コンテストというのは、クリスマスに行われるヒイラギとツタの歌のことだと、マーサおばさんが説明をしてくれた。
「キリスト教到来以前のものってことですか?」
「ヒイラギとツタのコンテストは、もしかしたらそうかもしれないですけど、それは日本の短歌や俳句がはるか昔から行われてきたということと変わりません。それぐらいヒイラギとツタは宗教とは関係なく愛されてきたということねぇ」
「この歌の中で、「Crown」というのは、ヒイラギが被る何かのことなんですか?」
「違いますね。コンテストは、歌の優劣をつける意味もあったけれど、Hollyを褒め称える男性側と、Ivyを褒め称える女性側がお互いに歌を出し合うというコンテストだったそうなの。
ということは、Holly and Ivyは男性側が作ってHollyを褒め称えたからCrownをつけたということになるわね。
あまり見つかってはいないけれど、Ivyを褒め称える歌も存在するわ」
すみれがなるほどと相槌をうって、質問をした。
「それならどうしてラエマ冬の書にパリンプセストとして書いてあるんでしょうか?」
「それは、ラエマ冬の書の本文にきっと書いてあるはずです。アシュリーは全部ここに持ってきていないけれど、最初のページに書いてあるのが読めるでしょう。
この本を読める人にって。」
「でもそれは20世紀にならないと読めないんです。だからその本文は別人が創作したっていうのが私の考えデス」
マーサおばさんは微笑んでアシュリーの頭を撫でた。
「アシュリーはとても賢いわ。けれど今日はせっかくだから私は想像をしてみることにする。魔女だっただろうラエマは、これを後世の私たちが読むことを前提に書いたのだと思う」
「この歌は、キリスト教の出来事に合わせて歌われているけれど、コンテスト自体はこの本が書かれたころになくなってしまったのだと思います。そんな風習はキリスト教にはなかったから。Hollyand Ivyは、最後に生き延びた賛美歌になった歌をとっておきたかったから書いたように思える」
それからマーサおばさんは、僕に向き直ってごめんなさいね、と前置きをした。
「オークションに出展をしたのは、私のカヴンの魔女の旦那さんなんです。先日、その方が亡くなってしまって旦那さんがオークションに出してしまったそうなの。
日本に来てこんなにはやく新しい持ち主に会えるとは思わなかったけれど、私から言えるのは、この本はあなたのものだということです」