ヒイラギとツタ4
アシュリーの言う通りだった。
ヒイラギとツタの歌詞をよく見ると、ヒイラギとツタと歌い始めながら、ツタは確かに最初と最後の歌詞にしか出てこない。
「アシュリーさん、どうしてヒイラギとツタが男性と女性になるんですか。イギリスにはそういう木ばっかりなんですか?それと、歌詞はずっとヒイラギの特徴を歌ってますけど、最初と最後に出てくる「Crown(冠)」ってヒイラギの何にあたるんですか?」
「アシュリーと呼んでくれればいいデス。そして、質問としては上出来デス」
アシュリーの日本語は、少しだけ片言になる。
「その質問の答を、あなたは知っています。この歌はいつ歌われるのでしたか?」アシュリーは意地の悪そうな微笑みをうかべた。
ヒイラギとツタなんて歌った事はないから、さっぱりだったけれど、Youtubeの歌を思い出した。聖歌隊の少年たちが歌っている様子が、教会の中で響き渡っていた。
「クリスマス…そうか、冬の歌なんだ」
「そうデス。冬の枯れた森の中で、いつも緑色をしているのが、ヒイラギとツタなんデス。ヒイラギは葉っぱが硬くてトゲがついていて、木は当然自分でたっています。ツタは、冬でも緑色をしているけれど、葉っぱは柔らかくて、そして他の木に巻きついています。これが男性と女性のイメージを分けたと考えられていマス」
「じゃあ、Crownはもしかして、雪のこと?」
「いい想像だけれど、多分違う。雪だったらツタにも積もるから」
「じゃあ、イエス様に関係した何か?」
アシュリーは真面目な顔になって僕の目を見た。
アシュリーは、灰色っぽい瞳をしている。
「もしこの歌をもっと知りたいなら、魔女のことをもっと知っていた方がいいと思います。この歌は、キリスト教に隠れた、魔女たちの歌じゃないかと思います」
アシュリーはキリスト教から異端とされた魔女の宗教について教えてくれた。
「ペイガンという言葉は、キリスト教からみて異教という意味なの。魔女たちは自分たちのことをウイッカと呼んでいるの。ウイッカは日本にもいます。そして女性だけでなく男性もいます。
ウイッカが成立したのは20世紀になってからだと思います。一度魔女狩りで途絶えてしまった伝統を復活させたんです。
基本的には、ウイッカは無理のない範囲で自分たちのやりたいことをやるという心構えでいます。それと自然との調和ですね。
それぞれの魔女は13人程度の集まりを作ります。この集団は、『カヴン』と呼ばれます。カヴンという組織が増えすぎると、また分かれて別のカヴンができていきます。厳しい規則の多い他の宗教に比べると、ウイッカはかなりユルい宗教ですね」
所々わからない部分をアシュリーは適切に補足を加えながら話してくれたため、なんとなく魔女のことはわかってきた。
「 今日、私がいつも魔女おばさんと言っている人が海外から家に来ています。魔女を信仰している人、ウイッカの一人です。多分ラエマの話をしたら面白い話をきけると思います。
宗教の話になるから、もしあなたがキリスト教徒ならやめておいた方がいいと思うけど、いやじゃなかったらぜひ」
それならぜひ、と返事をしたところで、携帯メールですみれから「夕食どう?」と連絡があった。
魔女おばさんの話をメールすると、「じゃあ、行く」と連絡があった。念のためキリスト教というより魔女の宗教の話になると連絡はしておいた。
「そう、すみれも来るのね」
「あれ、いけなかった?」
「別に。いいの、気にしないでね」
そういえばすみれのことをアシュリーには話したっけ?
アシュリーはPC画面を一通りDVDに焼いてくれて、18時に駅でと約束をして僕は研究室を出た。
ずっとアシュリーの顔が頭にちらついて、すみれに少し罪悪感を感じた。