ヒイラギとツタ3
ラエマ冬の書は、本の1ページ目からパリンプセストだった。
「この文字が読める人へ」と古英語で書いてある、とPC画面上の英語を指差しながらアシュリーは困惑を隠さない。
未だかつて、パリンプセストを前提にした本など一つもない。
それは単純にパリンプセストが、インクを消す処理をしたあとは見えなくなるからだ。
「調べたけど、ブラックライトの発明は19世紀、真っ黒なガラスで紫外線付近の光を取り出すことに成功したウッドのガラス以降なんだそうです」これはすみれとも話題にあがっていた。
アシュリーは、別のタブで同じページを確認して、
「では、この写本は19世紀に作られた写本で、ニセモノということになります。せっかくですが残念です。一応英語部分を調べてみますけど」
「例えば、この本にパリンプセスト部分を書き加えたのが19世紀ということは?」
「ないです。パリンプセスト処理は酸などを使って洗い流す処理です。紙の一部分だけ処理するとしたらこんなにきれいにいきません」
「特殊なガラスを発明した、とか」
「ありそうな気がします。でも、もしそんなガラスがあったら、他の魔導書やオカルトの本に同じものが応用されていてもおかしくない。でもこんな本は世界中見渡してもこのラエマ冬の書しかない」
やっぱり無理がありますよね、と僕は肩を落とした。
アシュリーはPCをヒイラギとツタに戻した。
「ただこの部分は、伝統的なパリンプセストです。半分のサイズになっています。
仮に19世紀に作られたとしてもこの部分は15世紀のものをいれた可能性が高いです。資料的価値はそちらの方が高いです。
「それに、ヒイラギとツタは魔女のシンボルでもあります」
アシュリーはつと空を見上げた。
「ヒイラギには、男性の性のイメージ、ツタには女性の性のイメージがあるんです。でも、このヒイラギとツタの詩には、最初と最後にしかツタが出てこないんです」