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分かれ道

 目の前に分かれ道があった。深い森の中である。右に続く道、左に続く道共に、生い茂った草木が不気味な暗闇を作り、昼間だと言うのに道の先はまったく見えない。

 男はどちらに進もうか迷った。この森に足を踏み入れ、出口が見つからずに出られなくなってから三日。持っていた食料もほとんどが底を尽き、そろそろ森から抜け出さなければ命が危ない。

 どちらに進めばいいのかは分からないが、何となく、右に進めば助かる気がした。理由は無い。確証も無い。ただただ何となく、右の道を進めば、この迷宮のような森から抜け出せると思ったのだ。

 しばらくした後、男は覚悟を決め、右の道を歩き始めた。鬱蒼と茂る草木をかきわけ、やがて見え始めた光の方へ、一歩一歩歩みを進めた。

 目の前に広がったのは、森の中からは決して見る事の出来なかった眩しい太陽、澄んだ空気、そして落ちたらどうしても助からないであろう断崖絶壁であった。

 「はは…」

 男は何かを察したように笑った。そして、何の躊躇いも無く、その崖から飛び降りたのであった。

 高い高い崖から落ちていく最中、男は遠くの方に自分がこの森に入った時の入り口を見た。その更に奥には自分の暮らしていた街並み。勤めていたビル街。男にはそのビル街が、今まで三日間彷徨い続けた森に見えた。歩いても歩いても出口の無い、絡みつくようなツタや草木が所狭しと生い茂るあの森に。

 猛スピードで地面が近づいて来る。自分はこの先天国に行くのだろうか、それとも地獄だろうか。男は考えた。もしもあの時左の道を選択していたら、無事に森の外に出れたのだろうか?おそらく出れたのだろう。そしてその先に待っているのは・・・地獄だ。森の緑よりも暗い、ひたすらグレーで覆われた冷たく淀んだ地獄だ。

 「いずれにせよ地獄か…ならば私は…自分から死を選ぶ。もう、こんな世の中はたくさんだ…」



 大きな衝撃音と共に男は崖の下の地面に頭から叩きつけられた。男の血は、赤い花びらのように辺りに広がった。それはそう、まるで、男がまだ純粋で、希望のある未来を信じていた小学生の頃、学校の先生がにこやかにノートに描いてくれた花マルのように。

 人生の最後に花マルを貰った男は、薄れ行く意識の中で花マルの横に「よくできました!」と書き足し、満足そうな顔でこの世を去った。

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