寺島さん
入口の外に人の気配。それはなかなか動こうとしなかった。たまに、中に入るか迷ったように、じゃりっという音が聞こえた。
明希も迷う。今出れば、犯人の不意を突けるかもしれない。
しばらくして、犯人が先に折れた。
明希の横からためらいがちに人が現れ、ビルの中に足を踏み入れる。犯人が入口と部屋の中央の間で止まる。
犯人は入口横、自分の斜め後ろに居る、壁に張り付いた明希に気付いて無かった。
犯人も少々動揺しているのだろう。
そう。この若い犯人だって動揺くらい…
この若い犯人…?
「・・・」
明希は言葉を失い、目を見開いた。
自分の斜め前にいる犯人。見知った後ろ姿。
(…寺島さん、?)
そう。知り合いだ。職場で週に4回会う程度だが。高2のバイトの子。
なぜ彼女が?
明希が呆然としていると、彼女はようやく自分の存在に気が付いた。
目が合い、時間が止まる。
そしてまた、先に動いたのは犯人だった。
寺島は入口横に明希が居る事にためらい、外へでは無くビルの奥へと逃げた。明希はなぜ自分はこうも反応が遅いのかと舌を打つ。
寺島は階段を上へと駆けて行く。
明希はそれをおった。
「明希!」
階段を上っていると賢太に呼ばれた。一体何処からと、走りながら周りに目をやる。
なるほど。階と階の間にある踊り場に長方形の鏡が貼り付けてあった。
明希は賢太が居る事に内心ほっとする。当たり前だ。一人より二人。仲間が居る事はとても心強い。
「あいつ、犯人。このまま行けば追い込められるよ!」
踊り場から投げ掛けられる賢太の声。
「このまま行けば屋上しかない!屋上のドアは針金で止めてあったから!大丈夫!追いつける」
明希はぜいぜい言いながら階段を上がった。途中で軽く足を止めるが、すぐに走り出す。
訊かなければ。なぜ自分に嫌がらせなどするのか。しっかり説明して貰わなければ。
「はぁ…はぁ…」
ガシャン、ガシャン
ドアノブを乱暴に扱う音。
「寺島、…さん!」
「―――!」
音が消える。
屋上のドアの前で、針金を懸命に解こうと苛立っていた肩が落ちた。