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電車

「間に、合った…」

 ぜえぜえと息を切らせながら、私はあいてる席に座った。車内は込み合っても空き過ぎてもいなく、そこそこの人数だった。皆、それぞれがそれぞれのしたい事をしていて、駆け込み乗車の私なんかにはまったく興味がなさそうだった。熟睡してる人は勿論、携帯をいじったり、新聞を読んでいたり。ゲームを持ち歩いて自分の降りる駅までやっている奴もたまにいる。そう言う人間を見るたびに、私は「なんて暇なんだろう」と、呆れるのだ。だが、今の自分の社会的な立ち位置を思い出しては、自分こそ何にもしていなく、ゲームをしている人間をああだこうだと言う権利はないなと虚しくなる。悪循環だ。

 どうでも良い。

 私は何もかも考えるのをやめて、ドア付近にあいている席を探した。もちろんそれはすぐに見つかる。この人数なら当り前か。みんな隣の人間から人一人分の幅をとり座っているのだから、私はその幅に入り込めばいいだけのことなのだ。

 ためらいなく席に腰を下ろし、まだ少し荒れた呼吸を整える。久々に走ったせいか、額や鼻の頭には結構な汗が溜まっていた。私は鞄からハンカチを取り出し、ついでに手鏡も探り出した。ハンカチは昨日のものだった。今朝はどたばたしていたので、新しいのと入れ替えるのを忘れていた。まあどうせ、私のハンカチなんかに気を使うような人間はいないだろうから、昨日のものだとばれることもないだろう。

 化粧も薄い事だし、取れたところであまり変わりもない。私は適当に汗をぬぐうと、いつも持ち歩いている、100均でお買い上げの鏡を開いた。別に体裁を気にしているわけではないが、最低限、マナーとしては必要だろうと思った。

 鏡を開き、自分を見つめる。

 いや、自分では無い。そこにいたのは―――

「おい!そこ優先せ」

 ぴしゃり

 私は鏡を閉じた。

 ―――賢太だった。

 私はもう、鏡の中に自分の姿を映し出す事もかなわないのだろうか。おかしな不安が頭をよぎった。そして、落ち着いた動作で手鏡をカバンの中に戻すと、自身の内に妙に冷静な自分がいて、私は呆れたように半眼した。

 なんでお前がここに居るんだ。

 本人に訊かず、頭の中、その問いばかりを自分に投げかけていた。

 鏡を閉じた時の“ぴしゃり”という音がそんなに大きかったのだろうか。隣に座るサラリーマンが私を訝しげに見ていた。。私はごまかすように視線を下にやり、着信が一切ない携帯を取り出していじり始めた。

(早く駅につけばいいのに)

 そんな我儘を声にしないでつぶやいた。 



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