ユメの世界
そこは夢のような世界でした。
ずっとそこにいたかったけどそれは出来ません。
私はまだ現実でやることがあったのですから。
「ちこくだーっ!」
はい、現在の時刻11時59分です。
待ち合わせの時間は12時です。
待ち合わせ場所まであと20分くらいかかります。
これはまずい。
だけれど猛ダッシュしても間に合いそうにありません。
せっかく憧れの人とのデートまで漕ぎ着けたのに!
とは言ってもただ昼食を一緒にするだけなんですけどね。
しかし、デートはデートです。
このデートが終わって、そのまま告白すればきっとその先に待つのは薔薇色の人生のはずです。
このチャンスを逃してはいけない。
なのに!
どうして、こんな時に限って目覚まし時計が止まっているの!?
だめだ、こんな時は素数を数えるんだ。
ふと部屋にころがっているなにかが目に留まりました。
そんな現実逃避を繰り返しても時間は巻き戻ってくれません。
そんなこんなで予定通り、19分遅れで到着となったのでした。
これほど遅れてきた私を、彼は困った笑顔ではありましたが許してくれたのです。
これこれ、こういうところが萌、なんでもありません。
さて、とはいえまずはこの汚名を挽回するところから始めないといけません。
あれ?なんだかおかしいような・・・ま、いっか。
それは見慣れたものでした。
気を取り直して彼の方を見ると、なんだか慌しく携帯でメールを打っているようでした。
待ち合わせ場所からそう離れていないレストランに着くまでそれは続きました。
レストランに着き、さあ注文だ、というところで突然私の携帯が鳴り出したのです。
いえ、正確には見慣れた人だったモノでした。
非通知ではありましたが、私には心当たりがありました。
このところ毎日のようにかかってくる電話があったのです。
最初は無言だけだった電話はいつしか奇妙な雑音が入ったり、
気味が悪くなってきたので何度も着信拒否にしました。
それは確か、憧れていた人だったように思います。
しかし、それは何度もかかってくるのでした。
なにもこんな時にと思い、すぐに電話を切りました。
でも、電話はまたすぐにかかってくるのです。
ああ、これじゃあまた彼に呆れられてしまう。
そっと彼の方を伺うと、なんだか青ざめた表情で私を見つめていました。
正確には、私の携帯を。
結局、その日の昼食は気まずい雰囲気のまま終わってしまいました。
後日発覚したことですが、彼には恋人がおり、
浮気(私のことだ)がばれて右往左往していたそうです。
けれども、もうそんなことを気にする必要はまったくありません。
彼はもう絶対にその恋人に会うことも、話すこともないのですから。
私は部屋にころがっていた彼のクビをそっと抱きしめ呟くのです。
「これで、やっと薔薇色の人生が始まるのね。」
END