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掌編小説

鎮魂歌

作者: 斎藤康介

【登場人物】

神保瑠美:姉

神保瑠璃:妹



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 それは空を見ていた。

 虚ろな瞳、鼓動しない心臓、温もりをなくした身体、何もかもが少しずつ欠けていた。

 まるで打捨てられた人形のよう。

 私と同じ顔立ち、同じと背丈、同じ年齢、しかし、私じゃない少女。

 零れる髪に月明かり映える。

 

 ――――私は姉を殺した。


 私は彼女の髪の艶やかさに密かに憧れていた。

 一本一本、まるで絹糸のように紡がれ、繊細な線の流れはピアノの旋律を感じさせた。

 私たちは似ていたが、髪の美しさでは姉に敵わなかった。


「せっかく瑠美ちゃんとおそろいだったのに・・・・・・」


 私が髪を切ったとき、周囲の誰もがそんな風に口にした。

 私はこの瞬間から瑠美(あね)という規格から外れた。いや、神保という家から脱落したのかもしれない。

 私と姉はいつも一緒だった。

 私たちは外に出ることを好まなかったし、二人で築いた世界に私たち以外のものは不要だった。

 私が髪を切ったのを機に周囲は私たちを腫れ物を触るように扱った。目を合わせようとせず、近づくことさえなくなった。

 私たち二人はより濃密に時間を共有することとなった。

 瑠美とは多くのことを話した。

 互いに相手の考えることは良くわかった。そして矛盾もなく受け入れることができた。


「かわいい。よく似合ってるわ、瑠璃」


 私が髪を切った時に、瑠美はそう言って私の頭を撫でた。私は瑠美のことが気がかりだった。いままで何でも一緒で、二人で決めてきたのに、私はそれを壊そうとしている。だから髪を切り瑠美に会ったとき泣いてしまいそうだった。

 そう、私はずっと一緒だった。いつまでも一緒だと思っていた。

 

 そして十回目の誕生日が訪れ、私は瑠美を殺した。

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