勇者(自称)「やり過ぎた」 仮釈放後初告白――魔鹿密猟とウルル村襲撃事件の真相――
「正直、やり過ぎじゃないかとは思いました」
魔鹿保護区密猟事件やウルル村魔角ウサギ牧場襲撃事件。
――2つの事件を起こした『勇者』を自称する男は、裁判でも一貫して「正当な魔物討伐だった」と主張し、罪を認めなかった。
あれから二年――。服役態度が極めて良好だったとして、先月、仮釈放となった。
二年前までは己の正当性を訴えていた男がなぜ今になって口を開いたのか。本誌の『週刊インプルス』は、渦中の男へ単独インタビューを行った。
――本日はよろしくお願いいたします。
勇者(自称)(以下:勇):よ、よろしく。
――緊張されていますか?
勇:ええ、してますね。ぼく、取材なんて初めてなんで。
――裁判ではかなり堂々と発言されていたと記録にありますが。
勇:・・・・・・よく調べてますね。あの時は現実だと思ってなかったんです。
――現実ではないと?
勇:ええ。ここはゲーム・・・・・・架空の世界だから、現実とは違ってやり直すことができるんだと思ってしまってたんですよ。違ってたんですけどね。
――そうなのですか。だから裁判中、「自分は無罪だ」と主張していたのですか?
勇:ええ。召喚した王国からも魔族の領地は好きに荒らしていいし、奪ったものはすべて自分のものになると言われてました。
100ゴールドと薬草だけ持たされて追い出された時点でおかしいと気づけばよかったんだけど、ゲーム・・・・・・架空の世界で旅をすることがね、嬉しくて。
――嬉しい?
勇:ええ。元の世界だと、王様に頼まれた勇者が魔王を倒すために旅をするゲーム・・・・・・あ、えっと、なんていうんだろう? 遊び? んーと、箱みたいなものに入った絵が自分で動かしていろいろできるもの? 難しいな。そんな遊びがあって、おんなじだと思っちゃったんですよ。
僕、王国に召喚された時、「勇者が来てくれた」って歓迎されちゃって。僕が主人公なんだってウキウキしてしまったんです。
――へえ。
勇:それで、ゲームなら経験値がいるということで、まず魔物がたくさんいるところを聞いたんです。
――それが今回の事件に関わるのですか?
勇:そうなんですよ。王国からは魔物化した鹿の食害被害が出てるから狩り尽くしてほしいと言われてまして。角や骨は魔法使いの杖にできるし、皮は高級革製品になるし、肉はうまい。そう言われたら、捨てる場所ないし、勿体なくないなぁって思っちゃって。
召喚してすぐに戦うなんて無理、不安だと言ったら一ヶ月だけ訓練してくれた上、一番最初は部隊をつけてやるって言われて連れてこられたのが鹿の住処の国境だったんですよ。
ワンチャン、あ、えっと、ひょっとして僕にも杖が貰えて魔法使えるかなぁって思って。王国から支給されたボロボロの木剣しか武器なかったですし。
――よくそんなので倒せましたね
勇:そうなんですよ。普通は無理らしいですね。拘留中に調べてもらったら、僕、魔法を自分に掛けるしかできないらしいんです。だからきっと身体強化してたんじゃないかって。
で、いっぱい倒しちゃったんです。
――それが魔族側からは天然記念物の魔鹿ルミナディアだったと。
勇:そうなんです。一帯を狩り尽くしたなと思ったら、王様が派遣してくれてた部隊の人が全部後処理してくれて。
めっちゃピカピカ光って逃げもしない鹿だなぁとは思いましたよ。正直、立てってるだけでこっちにすり寄って来て攻撃もしないから、簡単だなぁって思っちゃった。
――ああ、保護されているので我らも襲わないですからね。事件前、懐くのは自然の状態じゃないということで餌付けしないようにと言われてましたし。
勇:あー、なんか元の世界でも似たことあるなぁ。野生動物懐いちゃったら、事故や事件起こるから餌付けしちゃ、ダメなんですよね。ここでも同じだなあ。
ほんと、僕のしたことって。
あ、でも、王国には抗議が来たとも聞いてないんですよね。この時には。
――山の中だから誰が密猟したか分からなかったんでしたよ。王国側から誤って猟師が入ったにしてはおかしいとされてましたがね。
勇:そうだったんだ。
――まあ、保護しすぎて魔鹿が増えすぎてる問題もありましたから。
勇:ああ。そうだったんですね。でも、保護されてる生き物を狩っちゃったんですよ。はぁ。未だに手が真っ赤に塗れて、錆びた鉄の匂いが染み付いたのを思い出します。
始めて生き物を狩ったんですよ。吐きそうでした。今思えば罪悪感を抱いていたのかとしれないです。経験値稼ぎだと思い込んで、最後は目を瞑りながら倒してました。
――へえ。で、次はウルル村魔角ウサギ牧場襲撃事件を起こしましたが、なぜ襲ったのですか?
勇:最初の魔鹿で思った以上に倒していたみたいで、もう独り立ちできるねって言われて、城を追い出されたんです。ここでね、100ゴールドと薬草だけ持たされたんですよね。
ご飯もないし、ご飯屋さん行っても買えるほどのお金ではなかったし、どうしたらよいか分からなかったの、今でも思い出します。
で、最初に魔族を攻めるならウルル村だと教えてもらってたんです。
――へえ。
勇:魔族の村で勇者の剣を隠している村だって言われてたんですよ。実際、農家の宝箱にあったし。持ったらピッカーって光ったからきっと勇者の剣なんですよ。
で、そこにいた魔族のお姉さんは怯えていたから、かわいそうだし、まだ僕も倒すほどレベルが上がってない気がしたから剣だけもらって出ていったんです。
――家の扉と家財や壺が粉々になっただけで済んだというのはそんな理由だったのですか。
勇:そうなんですよ。次の家を探してたら、だだっ広いところがあってその真ん中に小さな小屋があったんです。
そこにウサギたちがいて、経験値だ、まずは勇者の剣を試そうと思って、襲っちゃって。
――ほう。
勇:でもすばしっこいし。蹴っ飛ばされるし。あと角からなんか小さな雷みたいなの撃ってきて痺れさせられるし。集団で噛みつかれたりもしましたね。
今思えば倒せなくて当たり前ですよね。こっちに来る前は武器なんて持ってなくて、戦いと無縁だったんだから。最初の魔鹿みたいに1ヶ月しか訓練してない人間が倒せるほうが可笑しいんだよ。
だから、小屋の中がぐちゃぐちゃになったぐらいで一匹も倒せなかったんですよ。
――まあ、飼われてるって言ってもかなり凶暴な部類の魔物ですからね。
勇:えっと。未だにあの牧場、なんの牧場か理解できないんですが。あ、いや僕が悪いし、また調べるから今言わなくてもい
――あ、あれは角を集めて高級アクセサリーを作る牧場ですね。自然と生え変わりを待つのです。
勇:角が高級アクセサリー。
――そうそう。で、捕まったと。
勇:そうなんですよ。苦戦している内になんかでっかい魔族に囲まれてて、そのまま抓み出されて箱に入れられちゃって。
王国の勇者だって言っても信じてもらえなかったし、なんならあの国、僕を知らないってしらばっくれやがった。僕は魔物を倒すのが正しいんだと思ってましたし。
――ああ、捕まってすぐ王国は『そのような人物を我が国では関知していない。妄言だ』とあなたの存在すら否定しましたね。
勇:そうなんですよ。じゃあ、僕を勇者って言ったのなんだったんだよって思って、最初がっくりしたんです。
――でもその後、あなたに施された王国式【洗脳魔術の術式痕】が我が国の魔術師により判明しましたね。
勇:本当に。洗脳を解かれた時に、やったことって全部犯罪じゃんって血が体から引いて行っちゃって。盗みしてるし、密猟してるし。
とんでもないことしてしまったって裁判中に気絶してしまったんですよね。
で、回復魔法までかけてもらってしまって、洗脳されてたんだって生暖かく見守られていたたまれなくなった。ほんと、やりすぎちゃった。
――でも、洗脳されていたんですよね。
勇:それでもやり過ぎたものはやり過ぎたんです。早く気づいていればものを壊したり、盗んだり、密猟したりしなかったんだ。
それにそれが悪いことって知ってたのに僕に洗脳掛けて嗾けた上、勇者なんて言ってない、知らないって言った王国はズルいなと思います。
――でも洗脳と言っても王国に逆らわなくなる洗脳だったと言われてますが。
勇:そう。王国からも僕が魔族の家で手に入れたものは勇者のもの、魔物を倒すのが勇者の仕事、魔王を倒すのが勇者の使命って何度も言われてました。本当に何度も何度も。
それが正しいことだって思い込んでたのも、今回のことを引き起こした一因かなと思います。やっぱり僕自身もゲームだと魔物を倒したら経験値が入る。それがペカペカ光る魔物なんてレアキャラじゃんって思って。
あ、貴重だなってことね。で、ゲームだと現実世界ではできないこといっぱいできて、壺割ったりタンス漁ったりして貴重なアイテムを貰って強化していくとこもあったんだ。だから壺割ったりタンス漁ったりしてアイテムをもらうのは正しいことだって思い込んでたんだ。
――そうですか。自分も悪かったということですね。では王国を恨んでますか。
勇:ちょっとだけ。でも、僕がゲームの世界だってテンション上げちゃったとこもあるから、全部は悪くないとも思っちゃったりします。
――最後に、これから召喚される勇者へ一言お願いします。
勇:そうですね……
――男は少し首を傾げ、少しの間視線を宙へ彷徨わせた。しばらくして口を開く。
勇:まず、他人の家のツボは割っちゃいけない、タンスや宝箱も勝手に開けちゃいけないんだってことですね。あと、家畜とか魔物たちって経験値ではないってこともだ。
――当たり前です。
勇:それが分からなかったんですよ。この世界の当たり前が僕の元いた世界の当たり前と似ているってことがね。だから、ここはゲームの世界じゃないと伝えたいですね。
――本日はありがとうございました
勇:ありがとうございました。
週刊誌を読み終わると僕はため息をついた。そっとコーヒーを差し出される。
「親方」
「どうだい? 未だに被害者は怒ってる事件のインタビューが雑誌に載った気分は。まあ、洗脳されてたってわかったお前よりは王国へ怒りは向かってるがね」
「でも、僕が引き起こしたことですからね。それに今は勇者対策として出した防犯グッズで償ってますから」
コーヒーを一口飲むと苦々しいものが喉を通り過ぎた。
――よし、今日も防犯グッズの作成と開発を始めるとしますか!
背伸びして作業部屋に向かおうとした背後から聞こえた魔石ラジオの音に思わず親方と顔を見合わせた。
――次のニュースです。本日未明、王国の勇者と自称する男と魔法使いが、オルガ村に不法侵入し――
ノリと勢いで書きました。後悔してません




