中編
翌日、シャルルは、昔と変わらない優しい笑顔で私の前に現れた。
「久しぶり、リーリエ」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が馬鹿みたいに跳ねた。身体というものは残酷だ。心がどれほど傷ついても、好きだった人の声を覚えている。
私はドレスの裾を摘み、完璧な礼をした。
「お帰りなさいませ、シャルル。二年間、本当にお疲れさまでした」
「ああ。昨日は会えなくて残念だったよ。倒れたと聞いて心配した」
「まあ……」
心配ですって? その少し前までアイラと抱き合っていたくせに? 婚約者への帰国挨拶に来たはずなのに?
その言葉があまりに白々しく聞こえて、笑みが深くなった。
「それは申し訳ありませんでしたわ。私も、ずっとあなたにお会いしたかったの」
嘘ではない。昨日までの私は、本当に会いたくて仕方がなかった。だからこそ、今は彼の顔をきちんと見ていられる。
シャルルは少し頬を赤くして言った。
「僕もだよ、リーリエ」
昨日までの私なら、その言葉を一生大切にしただろう。けれど今の私は、ただ思う。
——嘘つき。
「そうですか。それは嬉しいわ」
そう言った瞬間、僅かに心に痛みが走った。思わず顔を顰めると、心配そうにシャルルが覗き込む。
「リーリエ?」
「なんでもありませんわ」
その時、後ろから明るい声が飛んだ。
「お義姉さま!」
アイラだ。淡い桃色のドレスを揺らして近づいてくる彼女に、シャルルの瞳がほんの僅かに動いた。
本当に僅かだった。けれど昨日までの私なら気づかなかったであろう熱が、そこには確かにあった。
アイラも同じだ。私を見ながら、その視線は一瞬だけシャルルへ向かう。
私の目の前で——よくもそんな素振りが出来るものだと、呆れてしまう。
「もうお身体は大丈夫なのですか?」
「ええ。心配してくれてありがとう」
「昨日は本当に驚きました。私、シャルルから聞いて——」
「アイラ」
シャルルが低く名を呼ぶと、アイラはハッとしたように口を閉じた。どうやら昨日のうちに二人は話をしているらしい。私は会っていないのにね。
「どうしたの?」
「えっ?」
「シャルルから、何を聞いたの?」
私が首を傾げると、アイラは一瞬だけ目を泳がせた。
「そ、その、お義姉さまがお倒れになったと……」
「そう」
「ええ。それだけです」
「ふふ。そんなに慌てなくてもいいのに」
「慌ててなんて……」
「リーリエ……」
シャルルが柔らかく割って入る。
「アイラを困らせないであげてくれ。君を心配していただけなんだから」
胸の奥で、何かがまたひとつ壊れる音がした。
昨日までの私なら、彼がアイラを庇ったことなど気にも留めなかっただろう。
けれど一度見えてしまえば、もう見えなかった頃には戻れない。
「もちろんよ。私だってアイラを困らせたいわけではないもの」
にこりと笑ってから、私は二人の向こうへ目を向けた。両親、伯父夫婦、マルティン伯爵ご夫妻。全員揃っている。
「せっかくですから、皆様がいらっしゃるところでお話をしましょうか」
私が言うと、シャルルは不思議そうに瞬いた。
「話って?」
「ええ。私たちの結婚について」
途端に、シャルルとアイラの間に張り詰めたものが走った。それを見て、私は心の中で静かに息を吐く。
——大丈夫。出来るわ。泣くのは後でいい。
好きだった人を失う悲しみも。
妹のように思っていた子に裏切られた痛みも。
全部終わってから抱きしめればいい。
今はただ、この人たちがどんな顔で私の人生を奪おうとしたのか。……白日の元に晒さなくては。
秋の空は透き通るように高く、薄雲ひとつない青が果てまで広がっていた。降り注ぐ陽光はあまりにも穏やかで、胸の内に抱えたものだけが、この美しい朝から取り残されているように思えた。
その明るい光に満たされたテラスには、すでに両親たちが座り、お茶の用意も整っていた。
シャルルとアイラを促し、それぞれの両親の元に座らせると、私は七年間愛した人へ出来る限り優しく微笑んだ。
「シャルル、あなたは私と結婚して、どんな家庭を築きたい?」
問われたシャルルは、少しだけ困ったように目を瞬かせたが、すぐにいかにも婚約者らしい柔らかな笑みを浮かべる。
「そうだね。リーリエと力を合わせて、立派にロッシ侯爵家を支えていきたいと思っているよ」
よくもそんなことを言えるものだ。昨日、私とは白い結婚にすると話していた口で。胸の奥がちくりと痛んだものの、表情には出さない。
「そう……では子供は?」
一瞬だけ、シャルルの笑みが固まった。
「子供だって?」
「ええ。侯爵家を継ぐ子供のことよ」
私はわざと不思議そうに首を傾げる。
「私たちが結婚するのは、もちろん両家の結びつきのためでもあるけれど、ロッシ侯爵家の後継をもうけることも大切でしょう?」
「それは……もちろん、そうだね」
「何人欲しい?」
「リーリエったら」母が苦笑しながら窘める。
「まだ結婚もしていないのに、少し気が早いのではなくて?」
「ごめんなさい、お母様。でも私、昨日倒れてしまったでしょう? だからなのかしら。急に将来のことをきちんと考えておきたくなったの」
「まあ、それは悪いことではないが」
父はそう言って笑うと、シャルルの父であるマルティン伯爵も頷いている。
「確かに、後継について考えるのは大事なことです。シャルル、お前もロッシ侯爵家へ婿入りする身なのだから、その自覚は持っているだろうな」
「もちろんです、父上」シャルルは即答した。
けれど……その視線は一瞬だけアイラへと流れた。彼女もまた、不安そうにシャルルを見ている。
私にはもう、その僅かな視線のやり取りさえ見逃せなかった。
「でしたら安心ね」
私は微笑みながら続ける。
「私、三人くらい欲しいわ。最初の子が侯爵家を継いで、他の子たちはその支えになってくれたら嬉しいもの」
「三人!?」
アイラが思わずというように声を上げた。皆の視線が集まり、彼女は慌てて口元を押さえる。
「どうしたの、アイラ?」
「い、いいえ。ただ、お義姉さまは子供がお好きなのだなと思って……」
「ええ、好きよ。自分の子供なら、きっともっと愛おしいでしょうね」
「……そう、ですわね」
アイラの顔が僅かに強張った。シャルルも落ち着かない様子でカップへ手を伸ばす。
その姿を眺めながら、私は胸の奥に広がる鈍い痛みを押し込めた。
昨日聞いた話がなければ、今頃私は幸せだっただろう。シャルルと何人子供が欲しいか話せることさえ嬉しくて、頬を染めていたはずだ。そう思うと、どうしても悲しい。
どうして、私では駄目だったのだろう。どうして私を選んではくれなかったのだろう。
愛せないのなら、せめて正直にそう言ってくれればよかったのに。そうすれば傷ついても、ここまで惨めにはならなかった。
それでも私は笑う。ここで涙して、二人を優越感に浸らせたりしない。ならば、泣くものか。
「シャルルはどう考えているの?」
「え? どうって……」
「子供は何人欲しい?」
「それは……授かりものだからね。何人とは決められないだろう」
「では、もし私に子供が出来なかったら?」
今度こそ場が静まり、シャルルの喉がゴクリと鳴った。
「リーリエ、どうして……そんなことを」
「もしもの話よ」
「縁起でもない」
「でも大切なことでしょう?」私は父を見る。
「ねえ、お父様。もし私に子が出来なかった場合、ロッシ侯爵家はどうなるの?」
「そうだな……」
父は少し考えた後、顎に手を当てた。
「まずは親族から養子を迎えることになるだろう。侯爵家の血を引く者を探すのが普通だな」
「やっぱりそうよね」
「ああ。だが、そんな心配をする必要はない」
「分かっていますわ」
私は頷き、改めてシャルルを見た。
「シャルルもそう思うでしょう?」
「……もちろんだよ」
「では、私に子が出来なかったとして、あなたが余所の女性との間にもうけた子を、私たち夫婦の養子にして侯爵家の跡継ぎにするなんてことはあり得ないわね」
シャルルの顔からサッと血の気が引き、同時にカチャン、と小さな音がした。
シャルルが手にしていたカップを受け皿にぶつけたのだ。
「やだな。僕がそんなことをするわけがないじゃないか」
「ふふ……」
胸が痛む。どうして、今さらその言葉に傷つくのだろう。昨日、この耳で聞いたというのに。愛する人の口から放たれた裏切りの言葉を……。
それでもどこかで期待していたのかもしれない。何かの間違いだったと言ってほしかった。アイラとは何もないのだと。私を愛しているのだと。
馬鹿な私が信じられるような嘘をついてほしかったのかもしれない。
——けれど、もう遅い。
「では、私が昨日聞いたことは何だったのかしら」
シャルルの笑みが消えた。
「……昨日だって?」
「ええ、そうよ」
私は自分でも驚くほど穏やかな声で言う。
「ガゼボであなたとアイラが話していたことよ。忘れたわけではないでしょう? 昨日の今日だものね」
「……お義姉さま?」アイラの唇が震える。
「何を、仰って……」
「すべて聞いたわ」
私は彼女を見据える。
「私とは白い結婚にして、あなたとの子を私たち夫婦の養子にする。そうして、その子にロッシ侯爵家を継がせるのでしょう?」
「リーリエ!」
シャルルが立ち上がった。
ガタン! と椅子が床へ倒れ、耳障りな音を立てる。
「誤解だ!」
「どのあたりが?」
「それは、その……」
「聞き間違いではないわ。あなたは確かに言ったもの。『リーリエに子が出来なくても、君が産んだ子ならロッシ侯爵家の血を引く』と」
アイラが真っ青になり、ブルブルと震え出した。伯父様は一瞬だけ眉を寄せた。そして隣に座る伯母様と短く視線を交わす。
その僅かな動きを見て、私は伯父様もシャルルの勘違いに気づいたのだと悟った。
伯父様が話してしまえば事がうまく運ばないかもしれない。ここは賭けだった。けれど何かを考え込むように伯父様は口を開かなかった。私もまた、そのことには触れない。
まだだ。今、それを教えてはいけない。
アイラにロッシ家の血が流れているかどうかと、シャルルが私を裏切ったことは別問題なのだから。
「リーリエ、違うんだ!」
シャルルが慌てたように言う。
「何が違うの?」
「昨日は、その……少し気が昂っていて、馬鹿なことを言っただけなんだ。本当に実行するつもりだったわけじゃない」
「そうなの?」
「ああ。もちろんだよ」
私がアイラを見ると、彼女は唇を震わせながら俯いた。
「では、アイラとも何もないの?」
「それは……」
「昨日、二人が抱き合って口付けをしていたのも見たわ」
シャルルの顔から更に血の気が失せた。母が小さく息を呑み、マルティン伯爵夫人が口元を手で覆う。
「リーリエ、それは——」
「七年間、私はあなたの婚約者だったわね」
シャルルの言葉を遮る。
「隣国へ行った二年、あなたの帰りを待っていた。その間にあなたはアイラと恋仲になり、帰ってきたその日に、私とは形だけの夫婦になって彼女との子供を侯爵家の跡継ぎにすると話していた。それでも、ただ気が昂っていただけだというの?」
「僕は……」
「答えてちょうだい」
自分でも驚くほど穏やかな声だった。怒鳴りたいわけではない。ただ、もう逃げ道を与えたくなかった。
「アイラを愛しているの?」シャルルは黙り込む。
「昨日は愛していると言っていたでしょう?」
「……聞いていたのか」
「ええ。あなたが『愛しいアイラ』と呼んだところまで、全部」
私の胸が、また鈍く痛む。あの言葉を思い出すだけで、まだ苦しい。
私がどれほど欲しかった言葉だっただろう。いつか自分にもあんなふうに愛を囁いてくれるのだと、勝手に夢見ていた。その夢を壊した本人が、今は縋るような目で私を見ている。
「答えなさい、シャルル」
今度はマルティン伯爵が言った。低く抑えられた声には、隠しきれない怒気が滲んでいる。
「リーリエ嬢という婚約者がありながら、アイラ嬢と関係を持ったのか」
「父上……」
「答えろ」
「……はい」
「あまつさえリーリエ嬢とは夫婦として暮らさず、アイラ嬢との子を養子に迎え、ロッシ侯爵家の後継にするつもりだったのか」
「それは、まだ考えていただけで……」
「考えていたのだな」
「……はい」
マルティン伯爵は目を閉じ、深く息を吐いた。
「なんという愚かなことを」
「あなた……」
伯爵夫人は青ざめたまま、息子を見ることさえ出来ないようだった。
父だけが長い間黙っていたが、やがてテーブルへ置いていた手をゆっくりと組み、シャルルを見据える。
「シャルル君。一つ確認しておこう」
「……はい」
「君は、我が娘との婚姻後もアイラとの関係を続けるつもりだった。それは間違いないな」
「侯爵、それは」
「今は君が答える番だ」
シャルルは言い逃れを封じられ、唇を噛んだ。
「……っはい」
父の表情から、最後の温度が消えた。
「ならば、これ以上話すことはない」
「……え?」
「リーリエと君の婚約は解消する」
シャルルが弾かれたように立ち上がった。
「お待ちください! 侯爵、僕は謝罪します。二度とこんなことはしません。アイラとも……アイラとも……」
「座りなさい」
父の一言に、シャルルの身体が固まった。
「この婚約は七年前にロッシ侯爵家とマルティン伯爵家との合意によって結ばれたものだ。ならば両家の当主が解消に同意すれば、少なくとも両家間の婚約契約は終わる。そうですね、マルティン伯爵」
父に問われ、伯爵は苦悶するように眉を寄せた。しばらく息子を見つめた後、その肩を落とす。
「……そうですな」
「父上!」
「黙れ、シャルル!」
「ですが!」
「お前が原因だろう!」
鋭い叱責に、シャルルが息を呑む。マルティン伯爵は父へ向き直ると、深く頭を下げた。
「ロッシ侯爵。この度は、息子がリーリエ嬢に取り返しのつかない侮辱を働き、まことに申し訳ない。婚約解消について、異存はございません」
「父上、待ってください! そんな、勝手に」
「勝手なのはお前だ!」
伯爵の怒声が響き渡る。
「婚約者を裏切って別の娘と関係を持ち、そればかりか他家の爵位継承にまで口を出した。これでなお婚約を継続出来ると思っているのなら、お前は二年間、一体何を学んできた!」
「でも僕は、リーリエと」
「私は嫌よ」
そう言うと、シャルルが私を振り返った。
「リーリエ……?」
「もう嫌なの」
今までなら、その傷ついた顔を見ただけで胸が締めつけられただろう。それなのに今は、ひどく遠い人を眺めているような気がした。
「あなたと結婚することも、あなたの妻になることも、もう嫌」
「僕はやり直したい」
「私はやり直したくないわ」
「一度の過ちじゃないか!」
「はっ……」
思わず嘲笑が漏れた。
「あなたにとっては一度でも、私はこれから一生、その一度を思い出すのよ」
「……」
「あなたが私とは形だけの夫婦になり、アイラと家庭を築くつもりだったことも。二人の子供を私の家の跡継ぎにしようとしたことも。私があなたの帰りを待つ気持ちなど知らずに、別の人を愛していたことも」
声がまだ微かに震える。でも最後まで言わなければならない。これは私が決めたことなのだから。
「そんな結婚生活を、私は送りたくない」
シャルルは愕然として立ち尽くした。それを横目にリーリエは父へと向き直る。
「お父様、親不孝な娘をお許しください。これが政略だと理解しております。ですが……これ以上は無理です」
声が震える。
「もし、それでもこのままシャルルと婚姻しろと仰るのなら……私は、自分の人生を終わらせることまで考えてしまいます」
その瞬間、父の顔から血の気が引いた。
「リーリエ……」
低い声だが、怒っているのではない。傷ついたような声だった。心配をかけた。父にも母にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
これまで我慢し続けた涙が、音もなく頬を伝う。
「お願いです……お父様……」
「分かっている」
父はすぐに答えた。
「そんなことは絶対にさせない。お前がそこまで追い詰められる婚姻を、父親の私が続けさせるものか」
そして部屋の隅に控えていた執事へ視線を向けた。
「家令を呼びなさい。それから婚約契約書を持ってくるように」
「かしこまりました」
ハッとしたように、マルティン伯爵が僅かに顔を上げた。
父は静かに続ける。
「口約束だけでは、後になって認識の違いがあったなどと言われては困ります。本日付で婚約解消の合意書を作成し、双方で署名しておきましょう。王宮への届け出もすぐに行います」
「……承知……しました」
「なぜですか、父上!」
「何度言わせる。お前に異議を唱える資格はない」
シャルルはソファに座り込み、項垂れた。
父とマルティン伯爵は、七年前に交わされた婚約契約書を確認しながら、婚約解消の書類を整えていった。
悲しくないわけではない。
書面へ文字が一つ増えるごとに、七年間大切にしてきた未来が少しずつ消されていくようだった。
いつかシャルルの妻になるのだと信じていた。
同じ家へ帰り、同じ食卓に着き、子供が生まれたらどちらに似るだろうと笑う。
そんな未来を何度も夢に描いた。それが今、紙一枚の上で終わっていく。自分で望んだことなのに、胸が痛かった。
「リーリエ……」
シャルルが小さく私の名を呼ぶ。
「まだ間に合う。考え直してくれ」
「…………」
「僕はアイラとは別れる」
その言葉に、アイラが驚いたように顔を上げた。
「シャルル?」
「もう会わない。だから、僕たちは今まで通り」
「今まで通りには戻れないわ」
「戻れる! 僕が間違っていたんだ。それを認めているじゃないか」
「間違えたって言えば、なかったことになるの?」
「それは……」
「ならないわ。絶対に」
ほどなく父とマルティン伯爵がそれぞれ署名を終え、家紋の印章が赤い蝋へ押しつけられた。
家令が文書を確認した後、静かに頭を下げる。
「これをもちまして、ロッシ侯爵令嬢リーリエ様と、マルティン伯爵令息シャルル様との間で両家が交わしていた婚約契約は、本日付で解消となります。王都への正式な届け出につきましては、追って当家より手続きを行います」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にぽっかりと穴が空いたようだった。
すべて終わった……。もちろん、まだ届け出は残っている。けれど両家の当主が署名し、契約は終わった。
もう覆ることはない。
私はもう、シャルルの婚約者ではない。
彼もまた、私の婚約者ではない。
「そんな……嘘だ………」
シャルルが青ざめている。
「本当に、これで……?」
「そうだ」
父は淡々と答えた。
「今後、君がリーリエとの婚姻を望んでも、我が家が受け入れることはない」
「侯爵、僕は……」
「ないと言った」
きっぱりと言い切られ、シャルルが黙る。
その時だった。
「では、もうよろしいでしょう」
それまで黙っていた伯父様が、初めて口を開いた。不思議なほど穏やかな声だった。




