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悪役令嬢に転生したのに断罪イベントがバグっているようなので、運命ごと書き換えます  作者: カルラ


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第五章:協力者の選定と、理性の接続点

翌朝。


 空は雲一つない晴天であり、あまりにも整いすぎた青が、かえって現実感を薄めている。


 まるで“理想的な登校日”という条件を、律儀に満たしているかのような空模様。


 私はその空を一瞥し、軽く肩を竦めた。


 こうした細部にすら、妙な作為を感じてしまうあたり、少々神経質になっているのかもしれない。


 だが、それも無理はない。


 昨日の観測結果は、あまりにも明確だった。


 原因を排除しても、結果は成立する。


 ならば、次の段階に進むしかない。


 ——単独での検証には限界がある。


 観測の客観性を担保するためには、第三者が必要だ。


 しかも、単に立ち会うだけでは意味がない。


 論理的思考ができ、感情に流されず、なおかつ状況の異常性を認識できる人物。


 条件はかなり厳しい。


 だが、該当者はいる。


 私は馬車を降り、学園の門をくぐりながら、その名前を思い浮かべる。


 シルヴァリオ・ノクス。


 王太子レオンハルトの側近にして、冷静沈着な参謀役。


 原作においても、数少ない“状況を客観視できる人物”として描かれていた。


 そして何より。


 彼は“感情よりも合理性を優先する”。


 この一点が重要だ。


 私の仮説は、常識から見れば荒唐無稽に近い。


 だが、彼であれば——


 “否定から入らず、検証対象として扱う”可能性がある。


 教室に入り、軽く周囲と挨拶を交わしながら、私は彼の位置を確認する。


 窓際の席。


 書物を開き、周囲の喧騒とは一線を画すように静かに佇んでいる。


 相変わらず、分かりやすい人物だ。


 私はためらいなく歩み寄る。


「少しお時間、よろしいかしら」


 声をかけると、彼はゆっくりと視線を上げた。


 紫紺の瞳が、こちらを正確に捉える。


 数秒の沈黙。


 その間に、彼は私の意図を測っているのだろう。


「内容によります」


 簡潔な返答。


 予想通り。


「では、率直に言うわ」


 私は椅子の背に軽く手を添え、わずかに身を乗り出す。


「この世界の因果律に、異常がある可能性について」


 教室の空気が、ほんの一瞬だけ止まったように感じた。


 もちろん、実際には何も変わっていない。


 だが、少なくとも彼の注意は完全にこちらへ向いた。


「……続けてください」


 否定しない。


 その時点で、選択は正しかったと確信する。


 私は昨日の出来事を、順序立てて説明する。


 転倒イベント。

 原因の排除。

 それにもかかわらず発生した結果。


 そして、周囲の反応の形成過程。


 誇張も脚色もせず、可能な限り客観的に。


 彼は途中で一切口を挟まず、最後まで聞き終えた。


 その沈黙は、拒絶ではなく——分析のためのもの。


「仮に」


 やがて、彼が口を開く。


「その観測が事実であると仮定した場合」


 前提を共有する言い回し。


 良い兆候だ。


「因果関係の順序が逆転している、ということになりますね」


「ええ」


「通常は原因が結果を導く。ですがあなたの説明では、結果が先に固定され、そこへ収束するように事象が再構成されている」


「その通りよ」


 彼は顎に手を当て、わずかに視線を落とす。


 思考の深度が一段階下がった。


 表層ではなく、構造を見ている。


「興味深い仮説です」


 淡々とした声音。


 だが、その中には確かな関心が含まれている。


「もっとも、現時点では再現性が確認されていません」


「ええ、それは分かっているわ」


 私は小さく頷く。


「だからこそ、あなたに協力をお願いしたいの」


「協力、ですか」


「観測者として。あるいは、介入者として」


 彼の視線が再びこちらを捉える。


 今度は、わずかに鋭さを帯びている。


「リスクは?」


「未知数ね」


 正直に答える。


 ここで曖昧に濁せば、彼は確実に引く。


「ただし、少なくとも現時点で確認されているのは——」


 一拍置く。


「何もしなくても、結果は発生するということ」


 つまり。


 傍観は、安全ではない。


 彼はその意味を正確に理解したようだった。


 沈黙が数秒続く。


 そして。


「具体的な計画は?」


 その一言で、交渉は成立する。


 私はわずかに口元を緩めた。


「単純なものよ」


 机の上に指で軽く円を描く。


「次に発生する予定のイベントに、意図的に干渉する」


「内容は」


「ヒロインへの軽微な嫌がらせ」


 彼の眉が、ほんのわずかに動く。


 倫理的な問題ではない。


 純粋に意外だったのだろう。


「誤解しないでほしいのだけれど」


 私は軽く肩をすくめる。


「実行するつもりはないわ」


「では?」


「“発生させない”ことを、あなたに確認してもらう」


 つまり。


 原因が完全に存在しない状態で、結果がどう動くかを観測する。


 昨日の実験の、より厳密な再現。


「加えて」


 私は言葉を続ける。


「もし結果が発生した場合、その“補完のされ方”を記録する」


 誰が疑うのか。

 どのような理由付けがなされるのか。


 その詳細が分かれば、構造の理解は一段と進む。


 シルヴァリオはしばし沈黙した後、ゆっくりと頷いた。


「合理的です」


 短い評価。


 だが、十分だ。


「協力しましょう」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが静かに整う。


 単独ではなくなった。


 観測は、より正確になる。


 そして何より。


 この異常を“共有できる存在”ができた。


 それは、想像以上に大きい。


「感謝するわ」


「まだ結論は出ていません」


 淡々とした返答。


 だが、その言葉の裏にあるのは、明確な意思だ。


 ——最後まで見届けるつもりでいる。


 私は小さく微笑む。


 この物語は、どうやら私一人で解くものではなくなりそうだ。


 そしてそれは、決して悪いことではない。















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