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悪役令嬢に転生したのに断罪イベントがバグっているようなので、運命ごと書き換えます  作者: カルラ


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第二章:違和感の輪郭と、不自然な好意

 王立アストレア学園の正門をくぐった瞬間、空気がわずかに変わったように感じられた。


 それは単なる気のせい、あるいは初登校特有の緊張感による錯覚と片付けることもできる程度のもの。


 けれど、どうにも説明のつかない“均質さ”が、この場には漂っている。


 整いすぎている、とでも言えばいいだろうか。


 生徒たちの笑い声、交わされる挨拶、視線の動き。


 それらがあまりにも滑らかに流れていて、逆に現実味を欠いている。


 まるで、誰かが“良い感じに整えた場面”の中に放り込まれたような感覚。


「エリシア様、おはようございます!」


 声をかけてきたのは、見覚えのある令嬢。


 確か、サブキャラクターの一人——名前は……そう、カリーナ・フェルディア。


 彼女は原作では、特に強い個性を持たない、いわば“空気寄り”の存在だったはず。


「おはよう、カリーナ」


 軽く微笑みながら応じる。


 すると、彼女は一瞬、過剰とも言えるほど嬉しそうな表情を浮かべた。


「まあ……本日もお美しくて」


 ……こんなキャラクターだっただろうか。


 記憶を辿る。


 原作におけるカリーナは、もう少し距離感のある、無難な反応をする人物だったはずだ。


 少なくとも、ここまで露骨な好意を示すことはない。


 違和感が、ひとつ。


 しかし、それを掘り下げる暇もなく、周囲から次々と声がかかる。


「エリシア様、ごきげんよう」


「今日も素敵ですわ」


「お時間があれば、ぜひお茶会に——」


 ……多い。


 明らかに、多すぎる。


 私は無難に応対しながら、内心で冷静に状況を整理する。


 エリシア・ヴァルディアは確かに高位貴族であり、社交界でも一定の影響力を持つ存在。


 しかし同時に、傲慢で近寄りがたい性格として知られている。


 だからこそ、表面的な敬意はあっても、ここまで積極的な接触は少ないはず。


 にもかかわらず、今の状況は——むしろ“好かれている”。


 それも、不自然なほどに。


 理由は一つ。


 今朝、私は振る舞いを変えた。


 侍女への態度、言葉遣い、表情。


 確かにそれは好感度に影響を与える要素ではある。


 だが、効果が出るには早すぎる。


 あまりにも即時的で、あまりにも均一だ。


 まるで——


 「好意が自動的に付与されている」かのような。


 その思考に至った瞬間、背筋に微かな冷気が走る。


 あり得るのか。


 そんなことが。


「……いえ、落ち着きなさい」


 小さく自分に言い聞かせる。


 まだ仮説の段階だ。


 過剰に意味を見出すべきではない。


 そう結論づけたところで、鐘の音が鳴り響く。


 始業の合図。


 私は人の流れに従い、教室へと足を向けた。


 扉を開けた瞬間、視線が一斉にこちらへ向けられる。


 これは、想定内。


 問題はその質だ。


 羨望、尊敬、好意。


 そうした感情が、ほとんど混じりけなく、均質に向けられている。


 やはり、おかしい。


 私は静かに自席へと向かいながら、教室内を観察する。


 攻略対象となる主要キャラクターたちも、既に揃っている。


 王太子——レオンハルト・アストレア。


 その隣には、常に冷静な参謀役であるシルヴァリオ・ノクス。


 さらに、武を誇る騎士候補生グランディオ・ルーク。


 そして——


 教室の端。


 少しだけ居心地の悪そうに立っている、一人の少女。


 淡い光を帯びたような髪。

 不安げでありながら、どこか引き寄せるような瞳。


 彼女こそが、この物語の中心。


 ヒロイン——リュミエル・フェリシア。


 その存在を視認した瞬間、空気がさらに一段階、整った。


 ……いや。


 整いすぎた。


 ざわめきが収まり、視線が自然と彼女に集まる。


 それ自体は珍しいことではない。


 転入生、しかも平民出身という立場ならば注目を浴びるのは当然。


 だが、その“集まり方”が問題だ。


 誰もが、ほんの一瞬で彼女に関心を向け、そして——好意を抱く。


 理由がない。


 まだ何もしていない。


 会話すらしていない。


 それなのに。


 好意だけが、先に存在している。


 私は無意識に眉を寄せていた。


 これは、原作でも多少は描写されていた。


 ヒロインは“人を惹きつける力”を持っている。


 そういう設定だったはず。


 だが、それはあくまで物語的な誇張。


 段階的に、関係を築いた結果としての好意。


 決して、初見でここまで露骨なものではない。


 にもかかわらず、今の光景は——


 まるで“結果だけが先に置かれている”ように見える。


「……興味深いわね」


 思わず、そんな言葉が零れる。


 隣の席の令嬢が、きょとんとした顔でこちらを見る。


「何かおっしゃいました?」


「いいえ、独り言よ」


 軽く微笑んで誤魔化す。


 そして再び、視線を教室の中央へと向ける。


 担任教師がリュミエルを紹介し、彼女が拙く自己紹介をする。


「リュミエル・フェリシアと申します。まだ至らない点も多いですが、どうぞよろしくお願いいたします」


 その言葉が終わる頃には、教室の空気は完全に“彼女を受け入れる状態”へと収束していた。


 拍手。


 微笑み。


 肯定。


 全てが、あまりにも滑らかに連結している。


 ……やはり、違う。


 これは単なる人気ではない。


 過程を飛ばした、結果の固定。


 その結論に至ったとき、私は確信する。


 この世界は、ただのゲームの再現ではない。


 むしろ——


 “物語通りに進めようとする力”が、過剰に働いている。


 そして、それはおそらく。


 私にも例外なく、作用している。


 ——ならば。


 検証が必要だ。


 仮説を立て、観測し、否定する。


 その繰り返しでしか、この違和感の正体には辿り着けない。


 私は静かに息を整え、心の中で次の行動を決める。


 まずは単純な実験。


 「イベントの阻害」。


 原作において、この後に起こる小規模なトラブル。


 それを——意図的に潰す。


 もし、それでも同様の結果が発生するのなら。


 この世界は、想像以上に“頑固”だということになる。


 そしてそのとき。


 私は、もう一段階踏み込んだ対応を取らなければならない。


 視線の先で、リュミエルが席に着く。


 その瞬間、彼女の周囲に自然と人が集まり始める。


 理由もなく、説明もなく。


 ただ、そうなるのが当然であるかのように。


 私はその光景を、興味と警戒を半分ずつ混ぜた目で観察しながら、静かに思う。


 ——これは、思っていたよりも厄介かもしれない。















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