表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生したのに断罪イベントがバグっているようなので、運命ごと書き換えます  作者: カルラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

第一章:転生と認識、そしてわずかな違和感

 目覚めた瞬間、まず視界に広がったのは、見慣れない天蓋の内側に揺れる繊細な刺繍だった。

 淡い金糸で織り上げられた蔦模様が、朝の光を受けてわずかに煌めいている。


 ……ああ、これは間違いなく、庶民の部屋ではない。


 むしろ、行き過ぎた趣味の良さを感じさせる、貴族の寝室だろう。


 身体を起こすと、絹のシーツがするりと音もなく滑り、肌に触れる感触が妙に現実的で、逆に夢ではないことを強く主張してくる。


 私は、ゆっくりと自分の手を見た。


 白い。

 細い。

 そして、見覚えがない。


 爪の先まで手入れされたそれは、かつての私の生活圏には決して存在しなかった種類の手だ。


 ここまでくれば、結論はそう難しくない。


 ——転生、である。


 しかも、ただの転生ではない。


 この部屋、この身体、この違和感のある既視感。


 私は知っている。

 この世界を、設定として。


 かつて暇潰しに遊んでいた乙女ゲーム——『エンジェリック・ブレッシング学園』。


 その中で、主人公に理不尽な嫌がらせを繰り返し、最終的に華々しく断罪される存在。


 悪役令嬢。


 その名を——エリシア・ヴァルディア。


 鏡台へと歩み寄り、そこに映る顔を見た瞬間、私は確信する。


 金糸のような髪。

 整いすぎてやや冷たく見える目元。

 そして、完璧に整えられた“悪役令嬢然とした”造形。


 ああ、間違いない。


 私は今、ゲームの中の悪役令嬢になっている。


 それも、最終的に公開処刑じみた断罪イベントで社会的に抹殺される、あの役回りに。


 ……正直に言えば、あまり嬉しい役どころではない。


 だが、同時に思う。


 「回避すればいいのでは?」


 単純な話だ。


 私は既に未来を知っている。

 どの場面で何が起こり、どの選択が破滅に繋がるのかも、ある程度は把握している。


 ならば、そのフラグを折っていけばいい。


 ——理屈としては、極めて簡単。


 そこまで考えたところで、ノックの音が部屋に響いた。


 控えめでありながら、訓練された正確さを感じさせる音。


「お嬢様、失礼いたします」


 扉が開き、現れたのは侍女のリリネット。


 淡い栗色の髪をきちんとまとめ、無駄のない動きで一礼する。


 記憶にある通りの人物。


 そして同時に、私にとっては最初の重要な分岐点でもある。


 原作において、エリシアはこの侍女に対して極めて高圧的に接し、結果として彼女を遠ざける。


 そのことが後に、悪評拡散の一因となる。


 つまり——ここは改善可能なポイント。


「おはよう、リリネット」


 なるべく柔らかく、しかし違和感のない声音を意識して言葉を発する。


 すると、彼女の目がほんの僅かに見開かれた。


「……おはようございます、お嬢様」


 ああ、これは成功だろう。


 少なくとも、原作のエリシアならこの挨拶はしない。


 つまり、既に分岐は始まっている。


 そう思った矢先。


「本日は、王立アストレア学園への初登校日でございます」


 その言葉に、胸の奥で何かが小さく軋んだ。


 来た。


 物語の本格的な開始地点。


 ここから先、ヒロイン——リュミエル・フェリシアが登場し、全てが動き始める。


 私は軽く頷きながら、思考を巡らせる。


 まずやるべきことは明確だ。


 ヒロインに関わらない。

 嫌がらせをしない。

 そして、目立たない。


 これで大半の破滅フラグは回避できるはず。


 ……はず、なのだが。


 なぜか、妙な引っかかりが残る。


 記憶の中のゲームは、もう少し——こう、滑らかに進行していた気がする。


 何かが違う。


 具体的にどこが、と問われれば答えに窮する程度の差異。


 だが、その違和感は、霧のように確かに存在している。


「お嬢様?」


 リリネットの声に意識を引き戻される。


「ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていただけよ」


「ご体調が優れないようでしたら——」


「いいえ、大丈夫」


 むしろ、これからが本番だ。


 私はゆっくりと立ち上がり、窓の外へと視線を向ける。


 広がる庭園。

 整えられた花々。

 そして、その向こうに見える王都の輪郭。


 美しい世界。


 そして、同時に——明確な終わりが設定されている世界。


 だが。


「その結末、少しばかり書き換えさせてもらうわ」


 誰に向けるでもなく呟く。


 運命があるというのなら、それは絶対なのか。


 それとも、ただの“推奨ルート”に過ぎないのか。


 確かめる価値は、十分にある。


 そのとき、ふと脳裏に一つの疑問が浮かぶ。


 ——もし。


 もしも、この世界が本当にゲーム通りに進むのだとしたら。


 なぜ、私は“こんなにも自由に考えられる”のだろう。


 悪役令嬢は、もっと短絡的で、衝動的で、分かりやすい存在だったはず。


 少なくとも、こんな風に冷静に状況分析などしない。


 ……妙だ。


 ほんの些細な違和感。


 だが、無視するにはわずかに強い。


 私はその感覚を胸の奥に留めたまま、侍女に身支度を任せる。


 鏡の中のエリシア・ヴァルディアは、完璧な笑みを浮かべていた。


 それはきっと、誰が見ても“理想的な令嬢”の表情。


 けれど、その裏で。


 私は静かに考えている。


 この物語が、本当に“既知のもの”なのかどうかを。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ