前世編/傲慢な皇女①
皇女の物欲しげな顔。思わず背筋が凍りつきそうになる。
「ねえ、お前。
お前たちがこのスラム街で一生、生きるのに、どれだけのお金があれば良いのかしら?」
不躾に皇女はそう質問する。
ローアルは言われた通りとっさに単純計算し、声を震わせながら答えた。
「…はい、皇女さま。
おそらく、1,800ディラ《トルメンタ国通貨》ほど必要かと存じます。」
「そう。ふふ。何て安い一生なの。
フォンセ。後方のセルブォに伝えて。」
楽しげに皇女は笑って騎士に何か耳打ちをした。
直後騎士はその場から姿を消したが、数分後には息を切らして戻ってくる。
「フォンセ。」
皇女が指示すると、騎士は持っていた布袋を地面にひっくり返した。
「!!?」
舗装されてない道の上に、見たこともない量の硬貨がカラカラと音を立てて落ちていく。
私達が呆気に取られていると、皇女はローアルに恍惚とした目を向けて言った。
「1,800ディラよ。
これでお前の一生は、わたくしが買ったわ。」
「全く…お前というやつは。」
馬車の中から顔の見えない皇帝の声が聞こえる。
「さあ。早くここまで来て。」
皇女はローアルをまるで犬を呼ぶように手招きした。
………これが皇族?
本で見た通りだ。
人間をまるで家畜や道具のように扱うという。
いやだ。
こんな風にローアルを物みたいに扱うなんて。
こんな人にローアルを……
絶対にだめよ!
「さあ、それを拾って立て!お前の身はすでに皇女様のものだ!」
道の上に散らばった大量の硬貨を見ながら、騎士は再び怒鳴る。
だがローアルは怯えながらも、強い口調で言い返した。
「…僕は行きません。」
「貴様!この愚かな貧民が!皇女様の命令が聞けぬと言うのか!」
怒り狂った騎士は、腰に携えていた剣を鞘から一気に引き抜いた。
最悪な想像が私の頭をよぎる———
「だめ!!ローアルを殺さないで……!!」
咄嗟に私はローアルの前に両手を広げて立ち塞がった。
目の前には、騎士の構えた鋭い剣が光り輝く。
怖いけどローアルは私の大切な人!
絶対に死なせない!
「エステレラ!?」
絞り出すような声でローアルが私の名を叫ぶ。
「………は?お前は誰よ?」
さっきまでとはまるで違う、皇女の冷え切った瞳が私を見下ろしている……
間に入った騎士も同じく。
手に持った鋭い剣を今にも容赦なく振り下ろしそうだった。
瞬間悟った。私達はきっと今ここで死ぬだろうと。
ローアルは皇族の命令を拒否し、私は不敬を働いたのだから。
でも……構わないと思った。
どうせあの日に死ぬ運命だった。
それを救ってくれたローアルと、一緒に死ねるなら。
ここまでが私達の生だったというのなら、死ぬ時もローアルと共にありたい。




