前世編/幸せだった③
相変わらず私達は貧しかったが、それでも幸せだった。
いつかローアルが皇室の騎士になった時に恥をかかないようにと、庶民向けの図書館に一緒に通い独学で字を覚えたり。
その他にも、大衆向けに公開されている貴族の振る舞いについての本を読んだりもした。
また、商業ギルドで出会った教養のある奥様に食事のマナーを教わるなど。
それにローアルは流浪の旅をしていた元騎士に出会い、運良く剣術を教わることができた。
住処をキレイにして、毎日交代でご飯を作った。
天気の良い日は外に出て、シーツを桶に入れて足揉みして洗った。
それを竿に干してくれるのはいつも私より背の高いローアルの役目で。
こうして私達はだいぶ人間らしい暮らしができるようになった。
出会ったあの日のように、死にかけていた二人の子供はもうどこにもいなかった。
◇
———それから瞬く間にいくつもの季節が過ぎ、私達は13〜14歳くらいの年齢に成長していた。
「ただいま。エステレラ。」
「ローアル、お帰え…………って、キャアア!
どうしたの、それ!!!」
玄関先に立っていたローアルの服にべっとりと血がついていて、私は思わず悲鳴を上げた。
しかし私が驚いたことに驚いたローアルが、慌てて大丈夫だよと訴えた。
「今日の訓練で、師匠と本気でやり合ったら、剣が腕を掠めてしまったんだ。
けれど手当もしたし、本当に大丈夫だよ。エステレラ。」
罰が悪そうにローアルは負傷した右腕を隠そうとする。
「もうっ!ビックリした、心臓止まるかと思った!
あれほど無茶しないでって言ったのに!」
「ごめん、エステレラ。でも本当に大丈夫だから、ね?」
少し気まずそうにローアルは負傷してない方の手で、私の頭をふわりと撫でた。
そうされることに弱い私は単純で、すぐに怒ることをやめる。
「はあ。まったく、師匠は。
いくら日に日にローアルが自分より剣術の腕が上がっているからと言って、まさか本気を出すなんて。」
「ハハハ……。」
呆れたように私がため息を吐くとローアルはやっぱり気まずそうに苦笑いをした。
商業ギルドで出会った、ローアルに剣を教えてくれる師匠。
以前皇室騎士だったという彼はとても気さくな老紳士である。
嫌いじゃない。けどこの場合は正直大人げないなと思う。
こう見えてもローアルはまだあどけなさが残る少年だ。
今度会ったら気をつけるように強く釘を刺しておかなきゃ。




