前世編/魔術師ディーの罠③
———アウトリタと狩猟に出かけたローアルは、御前で見事な雄鹿を仕留めてみせた。
そのこともあり、エステレラとローアルは正式に皇室の従者として召し抱えられる事になった。
エステレラは皇室に美しい刺繍を献上する専属女中として、ローアルは国庫管理に侍従する者として。
付け加えると、日々使用人としての雑務をこなしながらエステレラは皇室に納めるための刺繍を編んだり、貴族のレディが学ぶ礼儀やしきたりなどを学ぶ事に。
一方のローアルは、皇帝や貴族の狩猟を補佐したり、仕留めた肉の保存食作りといった仕事をし、合間に騎士の訓練や教育を受ける事になった。
つまり二人はこれまで前例のない、貧民が皇室で働くという事に加え、教育という恩恵まで受ける事になったのだ。
しかし、それを心良く思わない者も当然いた。
狡猾なエスピーナはまずそれを狙った。
《皇室騎士団・養成、訓練所》。
教育の一環でローアルは騎士団から剣を習う授業を受けていた。
皇室の騎士になるのが夢だったローアルにとって、そこはまさに憧れた世界。
そもそも皇室騎士団に入るためには過酷な訓練を受け、実技試験を突破しなければならないという決まりがある。
もちろんローアルは正式に騎士団入りを目指すつもりだった。
しかしそこには皇室騎士団の副団長を務めるフォンセがおり、皇女の企てに忠実な彼はローアルに剣の練習をさせないようにした。
さらには養成所に通っている貴族の令息たちを扇動してローアルを無視したり、貶めるような陰口をわざと叩かせた。
「見ろよ、あいつ。今日も剣を持たせてもらえてないぜ。」
「ははは!貧民で身分もないくせにでしゃばるからだ。
騎士団に入れるのは貴族だけだって、身をもって知るがいいさ。」
「あんな薄汚い貧民、食糧庫でせっせと豚や鳥の肉でも管理しとけっての。汚い家畜同士、お似合いだぜ。アハハハ!」
元々、アウトリタ皇帝が貧民を迫害した事実は貴族達にも強く根付いており、その令息達もまたローアルのような少年を見下していた。
同じ人間を人間として扱わないのは何も皇女に限ったことではない。
ローアルも分かっていたはずだった。
しかしスラム街や市場がある街、商業ギルドで出会う貴族は比較的良心的な人々ばかりだった。
だからこんな風にあからさまな悪意を向けられたのは初めてで、当然ローアルは戸惑った。
また彼らに限らず、国庫(食糧)の管理者であるポルコやその従者達からも冷遇を受けた。
しかもローアルは優しく控えめな性格と、その美しい見た目が災いしてしまう。
〈気取っている〉
〈ろくに目も合わさないのが、貴族をバカにしている証拠〉
〈あの銀色の髪が気に食わない〉
事あるごとに嫌味を言われたり、突き飛ばされたり、あるいは服を汚すなどの悪戯をされるなど。
それでもローアルは文句も言わず、じっと耐え続けた。




