前世編/皇女と騎士の企み
◇
〈北の皇女宮・エスピーナの寝室〉。
「…なぜあの女がお父さまに呼ばれるの?
ローアルとだって結局引き離されたし!
納得いかないわ!
ね、そうでしょ?フォンセ!
おかげで決行が遅れてしまったわ!
西の塔へ行ったら、あの子を部屋から呼び出して、フォンセに片付けさせるつもりだったのに!」
「は!皇女様のいう通りでございます!」
ガウンを着たエスピーナは、他の使用人を下がらせた後で、フォンセに不満気に吐き捨てた。
「皇女様、心配はございません。
皇帝陛下があの下賎な者を西の塔に帰し、部屋に戻ったところを狙いましょう。
あのようなひ弱な者など、ほんの一太刀で息絶えるでしょう。」
「そう?ええ、そうよね。さすがフォンセだわ。
私の専属騎士。
私だけに忠誠を誓った騎士。
当初の残酷に殺すという予定は無くなってしまうけれど、目的は叶えられるわね。
お前を信じているわ。」
「は!」
フォンセが腰に携えた剣の鞘を握って怪しく笑えば、エスピーナも同じように笑った。
〈西棟、使用人室。深夜〉。
腰に剣を携えたフォンセは、エスピーナの命令を遂行すべく使用人の宿舎に忍び込み、エステレラの部屋にあっけなく侵入した。
エステレラは怒涛の一日の疲れのため、死んだように眠っていた。
それを見たフォンセは声を出さず冷笑する。
手にしている剣は普段皇室騎士団で使っているものとは違い、皇女から特別に賜った暗殺用の剣である。
実はフォンセは皇女に仕えてからというもの、皇女の嫌いな者や邪魔な者たちを、こうやって何人も葬ってきた。
フォンセは皇帝ではなく、エスピーナに心酔していた。
だからエスピーナの願いなら何でも叶えてあげたいと考えていたのだ。
「お前ごとき下賎な貧民が、皇女様の邪魔をするのが悪いんだ。」
小さく呟き、フォンセは剣を静かにエステレラの真上に掲げる。
そして目処をつけ、やや興奮気味にそれを振り下ろした——————。




