前世編/暴君皇帝③
あの謁見の時から、この皇帝の真の姿は噂とは違うのではないかと考えるようになった。
だって私のことを何か知りたいのなら、拷問でも何でもできる立場だ。
そもそも皇女が欲しがっているローアルを手に入れるためなら、邪魔な私を城に迎え入れたりしないはず。
気に入らなければ私の意見を聞かなくても、首を刎ねることもできる。
でも皇帝はそうはせず、自ら対応している上に私を人間として丁寧に扱ってくれている。
それが何故なのか、理由が全然分からなかった。
「———母親の名前はなんという?容姿はどのようなものだったのだ?
やはりそなたに似て、赤毛の髪をしていたのか?」
「私の母は、《トリステル》と名乗っていました。やはり髪は私と同じ赤茶色でした。
子供ながらも美しい人だと思っていました。
ですが、私を愛しておらず…
おそらく、憎んですらいたのではないかと思います。」
うっすら覚えている、赤茶色の長い髪を束ねた母親は、いつも私に背中を向けていた。
死なない程度に水と食料を与えてくれたが、私のそばには寄りつこうとせず、眠る時さえ一緒にはいなかった。
時おり恨めしそうに私を見ては、冷たく手を振り払った。
とにかく笑わない人だった。
なぜ、そんなことを聞きたがるのだろう?
私は皇帝の顔をそっと横目で眺めた。
「エステレラよ。エスピーナは亡くなった皇后の娘だ。
わたしには他に、妃も側室もいない。
だからわたしには、あの子以外に子供がいないのだ。
皇位継承権もあの子が一位だ。
もしこのまま、わたしが亡くなったら…
あの子は無理やりローアルを皇位に就けるだろう。そんな子なのだ。
たった1人の大切な娘だからと、わがままに育ててしまった。
分かるか?エステレラよ。
それでもわたしは、あの子が可愛くて仕方ないのだ。」
「皇帝陛下?申し訳ありません。お話がよく分かりません…」
「ふむ。少々難しい話しをしたようだ。
良い。刺繍は見事だった。
そなたはこれを皇室のために作ると良いだろう。
何事にも精を出すようにするのだぞ。」
そう言って皇帝は、まるで愛玩動物でも愛でるかのように私の頭を撫でた。
不思議な気持ちだった。
しかしもう、怖い噂のある皇帝を怖いとは思わなかった。




